約 2,183,290 件
https://w.atwiki.jp/kurosuru-ka/pages/7.html
諸君。ここは我が部隊の専門用語辞典だ。 新兵はここで学習しておくように。 RPG RPGスレ SAN値 青色一号 以下下2桁ぞろ目で 兎小屋 オッパニア 核攻撃 壁| カラー幼女 カレー クトゥルー 三連壱百 地獄ルール 重力兵器 浄化 消灯 すじ教 ZZZ団 蘇生 通天閣 爪楊枝 爪楊枝乱舞 テッカマン 名有り 願い事 猫鍋 ぴったん砲 被爆トリオ ポーション ボルテッカ RPG Rocket-Propelled Grenadeの略 比較的安価で取り扱いも簡単、しかも威力もあるロケット。 某不審船から巡視船に放たれたのもこれ。 作戦中では、66を出すと前レス数人が巻き込まれて戦死する。 RPGスレ 以下、dat@wiki名物スレより転載 「あっRPG!」 潜入工作、深夜の奇襲など何でもありの参加型ルーレットスレ 場合によっては犠牲者が100人を超える場合も 最近では「プロポーズ少尉の悲劇」と呼ばれる事件が記憶に新しい 爪楊枝は伝家の宝刀である 現在作戦司令としてプリン大佐と爪楊枝大佐、新大阪大佐がいるらしい 大佐は幼女(ただし「画像の幼女って大佐だよね」と言及すると大抵戦死する) 作戦終了後に死者の蘇生作戦が行われる事がある バトル有りラブロマンス有りコメディ有りと何でも有りになってきている SAN値 精神的なショックなどを表す数値、これが減少すると精神的に強いショックを受けたと言うことになる。 最大値は100であり、通常時はこの状態が維持されている。 これが精神的ショックを受けるとその衝撃の度合いに合わせて減少、-10になると二度と正気には戻れないと言われている。 けど結構みんな簡単に-10を下回ってます。 元ネタはTRPGのクトゥルフの呼び声。 この部隊クトゥルフネタ多すぎね? 青色一号 一時期話題になったペプシブルーに含まれている着色料。 もちろんポーションにも含まれている。 また、ポーション大佐の必殺技の名称でもある。 ポーションと違い、専用の瓶が用意されているらしい。 なお、ポーション大佐は青色一号を発展させた上位技を2つ持っており それぞれ「奥義・青一色薬地獄」「禁忌・青き清浄なる世界」と呼ばれる。 状況や規模によって使い分けている模様。 以下下2桁ぞろ目で 願い事によって作ることになった品物の材料等、簡単な何かを決める際に使われる願い事の縮小版。 もちろん下2桁ぞろ目を出したものの意見が採用される。 この方法で命名された名有りも多い。 最近では使われすぎたためか略されたり等するのが基本となり、「即下二」「以下下二」という呼ばれ方の方が身近ですらある。 これに関してはRPG部隊と言うよりもdatのサガ。これも 「」のサガか‥‥ 兎小屋 基地の敷地のはずれにある死体タバコの家。 首切り兎が三匹に家具が一通り揃っているだけの場所だったのだが、補給輸送兵が経営する『シュラバー』になったり、ZZZ団の本拠地になったりと今ではありし日の姿が欠片も存在していない。 07年2月26日には『ハイビジョン64型液晶プラズマTV』、『自縛装置』、『厄介なもの』、『精神と時の部屋』、『目からマスタースパーク』が装備された。 この兎小屋に集うメンバーを考えると、精神と時の部屋は完璧に無用の長物だろう。 兎にも角にも兎小屋のカオス化は止まる事を知らない。 オッパニア 女性の乳房を何よりも愛する者たちばかりで構成された、近くて遠い国。 全ての分野において、その技術力には定評がある。作戦中にピンポイント爆撃を 繰り返したり、蘇生に割り込んでくる、など、その行動は謎に包まれている。 最近はそのうち数人(特に一人)が宮ちゃんにご執心のようで、毎日のように揉もうとするオッパニア兵が虹色の拳をはじめ、宮ちゃんの様々な攻撃で吹き飛ぶ様が見られる。 いっそのこと人間花火として、RPG名物にしてしまえばどうだろうか。 兎にも角にも、君も乳房に対する熱い想いを我慢できなくなったら、叫んでみるといい。 「おぱーーいい!!」 「宮即揉」 ただし、後者を叫ぶと死ぬ確率が高いので注意すること。 核攻撃 ウランやプルトニウムなど、誰でも危険と判断できるものが使用されている最終兵器。 その光の輝きは全てを呑みこみ、灰さえ残さない。 作戦中、終了後を問わず5桁以上のぞろ目が出ると核が発動する。 ぞろ目を出した者と、それまでレスした全員が死亡する。 99999と00000の2連発が出ると目も当てられない。 (おそらく06年)6/20の作戦では過去最大級の7777777という特大の核が落下し、この一撃で343名の 死者が出てしまった。(その後の戦死者も含めるとその日の死亡者は355名に上る) 7桁の核の前では3桁浄化の願い事も無力であった… 壁| 落ち込んだり怖かったり恥ずかしかったり、そんな時に隠れる場所。 主に新大阪大佐が使っている。 時と場所、人によっては岩陰|だったり草葉の陰|だったり研究室||だったりも。 「壁|<や…諸君…」 カラー幼女 某機関にて生み出された色とりどりのクローンもしくは生体兵器っぽい幼女軍団の総称。 色ごとに様々な属性を持っており、現在は8体が確認されている。 青→ポーション大佐 白→氷、冷気・齧られ役 紫→毒・ロリババァ 黄→分離合体?・いらない子 緑→植物・ドジッ子 灰→石化・石の幼女しか愛せない病気 紅→炎・青と対等に渡り合えるライバル? 黒→影に溶け込む能力?・変に真面目? ちなみに現在、この全員がRPG部隊のメンバーとして活動中。 灰が石化能力で作った家に住んでいる模様である。 カレー 多彩なスパイスや野菜を煮込んで作る定番料理。 だが、dat軍においては核に次ぐ恐怖の存在でもある。 基本はカレー鍋に次々と具を足していくだけだが、少しでも気を抜くと、明らかにヤバ イ食材が投入されたりして、とても人が喰えるようなモノでは無くなったりする。 気がつくと大佐もカレー鍋に投入されてたりもする。 作戦終了後には、ゾロ目を出したらそのゾロ目分だけカレーを喰わされる羽目に。 クトゥルー 元ネタはH.P.ラヴクラフトの小説とかが元になってるクトゥルー神話。 預言者一族の預言じゃない力はこの神話が元ネタになってることが多い。 預言者長男・長女・にゃー:ニャルラトホテプ 預言者次男:ハスター ゾイゾルゲ:シュブ・ニグラス ダークスルーカ・預言者三男:ヨグ・ソトース どんな神様なのかはぐぐってみよう。どれもろくなものではない。 三連壱百 プリン大佐の最終兵器。 名前の由来は「3個¥100円のプリン」から。 3本の用途別の斧の総称のことらしい。 内訳は「オノ・ヨーコ」と「メイ・モリナガの斧」。 どちらかが双斧で、どちらかが一撃必殺の大斧とのこと。 地獄ルール 作戦後、全滅の願いとその後の蘇生の成功条件を4桁ゾロ目に限定、自力でゾロ目を出した者だけが先に蘇生されると言うルール。 即全滅⇔即蘇生のループによるマンネリを解消する為のものとして本スレで提案・議論がなされ06/12/03に初実行されたが 十分な告知をせずに行った(この項目自体初実行後に追加されたものである)為、一部の顰蹙を買ってしまった。 このルールが今後どうなるかは不明である。 …と、記されて早2年以上。それ以降このルールが使用されたことはない。 重力兵器 敵軍の開発した、重力を操る兵器。 これが発動した途端、身動きが取りづらくなる。 その極悪ぶりは時には核以上の脅威となる。 特に蘇生時やイカの暴走時など、肝心な時に限って発動する事が多い。 ※ようはdat全体が重いときに書き込めなくなったりする状況のことをさす。 浄化 核が発動した際に行われる行為で、放射能除去のこと。 成功条件は蘇生と同じ。 当然ながら蘇生の前に行わないと復活した兵士達が被曝してしまう。 ただし、核の発動が作戦中であった場合には行わなくてよい。 …と言うルールがごく初期にあったが、 それが原因で爪楊枝大佐が大変な目にあってしまった為 少し前までは作戦中の核も浄化することになっていた。 最近では、その場その場のノリに依るところが多くなっていたりする。 消灯 RPGスレが時間経過によって消えること。 消灯時間が近づいていることを知らせてくれる兵士もいる。 同様に消灯時間を知らせてくれるおばさんやお姉さんも昔からいる。 すじ教 女性の陰部の「すじ」を崇拝する宗教団体。 すじ、またはそれを連想させるもの(例:(Y)(i)等)を見たら必ず礼拝するのが決まり。 RPG部隊兵士の中にも多くの信者がおり、敵兵のスパイにより上記の記号を貼られ礼拝した隙に殺される者も。 オッパニア人同様爆撃や蘇生に割り込んでくることもある。 「くらえ!つ「 Y 」」 「orz」 ZZZ団 地味、人外、弱キャラ…この三要素を満たしている者が入れる今最も輝いているかもしれないかもしれない別働部隊。 現在のメンバーは狙撃兵、死体タバ子、いるぞぉ、2点…の4名。 完璧に三要素を満たしている者は居ない気もするが、まぁ本人達がいいのなら別に問題は無いだろう。 次の文ははZZZ団リーダー兼アイドルであるタバ子嬢の御言葉だ。ソレデハバンセンスタート!! 『ZZZ団は日夜、部隊のピンチに駆けつけます!大概間に合わへんけどよろしく! 兎小屋でのんびりする。願いのデコイになる。偶に3桁当てる。 …以上の三つがZZZ団のメイン活動やでー!見かけたら声援よろしくー』 …との事だ。 既にメンバー内に弱キャラと言えるキャラがほとんどおらず、参加頻度がめっきり減った者もおり さらには存在を忘れている兵士や、存在を知らない新兵が多いため、ほぼ自然消滅しているような気もするが、これからも彼等の活躍を生暖かく見守っていこう。 蘇生 作戦終了後、戦死した者達を蘇らせること。 3桁以上のぞろ目を出すことにより成功する。 長時間にわたって蘇生が失敗するときはスルー力が発動してると言われる。 なお、作戦終了後最初の3、4桁ぞろ目は他に願い事をしていない場合(ぴったん砲がずれた等)大抵の場合は蘇生扱いとなる。 だが、当てた本人が蘇生しない等と言い出したら本当に蘇生されてないことになったりもする。 通天閣 一般的には大阪のシンボルと言える建築物のことを指すが、ここでの通天閣とは 新大阪大佐の奥義の事を指す。 6/26の作戦時間終了間際で発動した。 技の詳細は不明だが、「」の1人曰く「まるで通天閣のように直上からハリセンを 叩きつけると言うあの伝説の…!?」との事。 爪楊枝 伝家の宝刀。 事の始めはとある作戦において支給装備品が「爪楊枝」だけのことがあった。兵は混乱するが、なぜかその戦いで大勝利を得る。その後、支給されると勝利し、逆にないと敗戦してしまうことが続き、決戦兵器として認知されるようになった。 「爪楊枝なんかで戦えるかよ!」 「お前は爪楊枝のすごさを知らない」 は当時(05年秋)の決まり文句だった。 超長距離決戦兵器「TAKEGUSHI」なるものも存在する。 ちなみに、爪楊枝大佐の爪楊枝はここから来ている。 爪楊枝乱舞 伝家の宝刀・爪楊枝を用いた戦闘術。 オリジナルの「爪楊枝乱舞」の他にも 「爪楊枝乱舞・改」「弐式爪楊枝乱舞」「参式爪楊枝乱舞」 「爪楊枝乱舞・雪月華」「爪楊枝乱舞・大往生」「我流・爪楊枝乱舞」 等、様々な亜流が存在する。 応用次第では爪楊枝以外の先端が尖った物(ボールペン等)から繰り出す事も可能。 テッカマン Dボゥイやダガーの変身した姿の総称。 本来はラダムによって作られた生体兵器を射す言葉である。 クリスタル状のシステムボックスを掲げ「テックセッター」と叫ぶことで変身フィール ドを形成し、その内部でテッカマンとしての姿へ体を変貌させる。 装甲や武器は光を物質に変換することで驚異的な硬度を持つ。 ちなみにRPG部隊にいるテッカマンズはただのお笑い集団だぞ!! 名有り 名前を名乗って作戦に参加している兵士達のこと。 最初から名前がある者もいれば、独特な言動で通称がついた者もいる。 作戦を指揮する大佐達もそれぞれがひとりの名有りである。 なお、原則として作戦中に死亡した名有りは作戦終了後最初の蘇生には参加できない。 どんな名有りがいるのかは名有り一覧参照。 願い事 作戦終了後、何か願い事をしながら3桁以上のぞろ目を出すとその願いが叶えられる。 例えば「~に行きたい」と言えば基本的に部隊の全員がそこに空間転移することになる。 しかし核攻撃の欄にある通り、作戦終了後においても5桁以上のぞろ目は問答無用で核攻撃となる。 (ただし、特例として『核を防ぐ』と言う願いや、『核を別の場所に移す』という願いが通った事もある) 当初、ぞろ目1回につき願い事はひとつだけと言う制限があったが、 時の流れとともになくなってしまった。 一時その制限を復活させたこともあったが、いつの間にかうやむやになっている。 猫鍋 某電波ソングを起源とする、猫を具としたある意味究極の料理。 猫鍋推進派の「」が、某名有りの猫姉妹を鍋にしようと試みるが、 だいたい本人かギャラリーに阻止される。 定型として、「ぐつぐつにゃーにゃー」「今日も猫鍋日和♪」 2006/5/16、200匹の猫がぐつぐつにゃーにゃー …と本当に猫鍋にされてしまった。 ぴったん砲 作戦終了時間ぴったりにレスをすること。 ぞろ目の時は瀕死扱いされる。たまに時空を歪める力があることが判明している。 ぴったん砲成功者は記録兵に集計されます。 被爆トリオ RPG部隊の主要メンバーの中でも、特に被爆率が高めの3人をまとめてこう呼ぶ。 結成時のメンバーはうっかりディオ、プレデター、補給輸送兵の3人。 キング&ジャックや死体タバコを加え被爆カルテット、被爆レンジャーなどとも言う。 また、ポーション大佐が白の被爆者被爆マザーの地位を確立しており、その規模は 某魔法家族の規模にまで発展している。 一時期は補給輸送兵の被爆率低下もあり、被爆トリオは解散の危機に瀕していたが 今は普通に被爆しているので問題なし…と思ったらプレデターが名無しに戻った事から 元祖被爆トリオ、及び現被爆レンジャーは事実上の消滅。 被爆グリーンことプレデターの後継者として、(゚д゚)ピコレットタイチョウが挙げられていた。 後日、新被爆レンジャーの候補で、被爆レッドに(゚д゚)ピコレットタイチョウが、被爆ピンクに衛生兵が挙げられていた。 そこから現在に至るまで、様々なキャラたちが被爆トリオに認定されてきたが、2009年1月現在は特に被爆トリオと呼ばれる者は居ない。 せっかくなので久しぶりに決めてみるのもどうだろうか。 ポーション ご存知、某有名RPGに登場する回復薬。 サ○トリーより、それを模した清涼飲料水が発売された。味は大変個性的なようだ。 RPGスレでは、特に、料理の場面において投入されることが多い。 また、ポーション大佐の武器でもあり、彼女が作戦を指揮するときは支給品に必ず ポーションが含まれてるが、時々副作用で死ぬ兵士もいる模様。 ポーションは全てを青に染める…。 ボルテッカ テッカマンシステム最大の破壊力を誇る武装。 変身時に体内に蓄積される反物質粒子・フェルミオンを加速放射する事で、あらゆる 物質を消滅させる破壊の光を放つ。 体力消費が激しすぎるため1回の変身で1発しか撃てないが、そこはソレ。 スパロボ方式でENの続く限り撃つことが出来るだろう。 ちなみに全テッカマンでダガーのみコレが搭載されていない。 ボルテッチュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/397.html
さよならの行方-trinity in the past-(前編)◆wqJoVoH16Y 手頃な岩に腰掛けながら、空を見上げる。 疎らな雲は数え始めたらすぐに終わってしまいそうなほどに少なく、 陽光は汗ばんだ額を照りつけていた。 光は誰の下にも等しく降り注ぐ。ただ2人の魔王を除いて。 俺<私>は、今此処に生きている誰よりもその2人をよく知っていた。 ストレイボウは、空を見上げながらぼうっとしていた。 先ほど遠間から遠雷のような戦音が聞こえたが、心にさざ波は立たない。 誰かが鍛錬でもしているのだろう、と断じていた。 読みかけのフォルブレイズの頁が風でパラパラとめくれる。 彼ら戦士の鍛錬と違い、魔術師の準備とはかくも地味なものだ。 奇跡か神の御業と錯覚するほどの絢爛豪華な術法を支えるのは、気が遠くなるほどの下準備。 故に、異界の魔術の最高峰『業火の理』を修める術もまた、その魔導書の読解以外にはない。 火属性魔術の強化触媒にするだけならばともかく、その書を行使するにはその理を解するしかないのだ。 水筒の水で唇を少し湿らせる。腹三分目に留めた空腹感は心地よく、脳漿は澄み渡っていた。 ピサロと分かれたストレイボウもまた、己ができることを模索し始めていた。 既に辿り着く場所を定めた彼は他者に比べその道程も明確で、為すべきこともより具体的となる。 己が立つべきその場所にたどり着くまで、彼らの為したいとする願いを、願えるようにすること――――彼らの力となることである。 己が目指す其処は全ての屍に立って到達するべき場所であってはならない。 その準備として、彼は既にアナスタシアの下に赴き、集められたアイテムの中から必要なものを見繕っていた。 神将器フォルブレイズを筆頭に、天罰の杖とクレストグラフを装備する。 生き残りの中で純正の魔術師はストレイボウしかいないので、 魔術師向けの装備を回収するのに他の者に気兼ねをする必要が無かったのはありがたかった。 攻撃用のクレストグラフが無いことは気づいたが、 ほぼ全ての属性に心得を持つストレイボウには不要であったため、さほど気にはしていない。 むしろ、補助魔法の手管が増えることが、彼にとっては好ましく思えた。 たった一人に勝つ為だけに磨き抜いたこの術理が、誰かの力になれるということが嬉しかった。 装備を改めるに当たり、ストレイボウはアナスタシアへの了解を取らなかった。 正確には、了解を得ることが出来なかった。 工具を手に首輪の向かい合いながら佇むアナスタシアを目の当たりにして、声をかけることなど出来なかったのだ。 ルシエドに背中を預け、邪魔にならぬよう髪をまとめ、顎の縁から”つう”と汗を滴らせる彼女に、常の道化めいた気配は微塵もなかった。 視線で首輪に穴をあけてしまいかねないほどの集中を以て、彼女は首輪に相対している。 アナスタシアは首輪に触れることもなくただ首輪を見つめていた。 その様だけを見れば、時間もないのに何を悠長にと思う者もいたかもしれないが、ことストレイボウに限っては違った。 彼<私>には理解できる。彼女は取り戻そうとしていたのだ。 遙か昔に置いてきた指の記憶を、技術者<アーティスト>としてのアナスタシアを。 寝そべったまま、ストレイボウはフォルブレイズの横に置いたもう一つの書をみる。 そこにあった手帳のような1冊の書。それこそはマリアベルの遺した土産に他ならない。 気づいていなかったのか、気づいて捨て置いたのか、なんにせよストレイボウはアナスタシアに咎められることなくそれを手にした。 その内容は絶句としかいいようもないものだった。 (無論、序文の傾いたケレン味あふれる文章に、ではない) 真の賢者というものがいるのならば、それあマリアベル=アーミティッジをおいて他にはいないだろう。 その真なる序文をざっと読むだけで、アナスタシアの放送後の行動は納得できる。 彼女の周りには、無数のメモの切れ端があった。 マリアベルが遺した首輪の解除方法の記されたメモだった。 イスラやアキラ、果てはニノやヘクトルのサックにも分散して入っていた様子。 アナスタシアがサックや支給品を一カ所に集めさせたのもこれが理由なのだろう。 そして、そのメモを横目に見た彼<私>は確信する。これでほぼ正解だ。 この通りに分解できれば、少なくとも首輪は無力化できると“今の”ストレイボウは理解できる。 故に、アナスタシアに求められているのはそれを寸分違わず実行できる精度。 だから彼女は取り戻そうとしている。未来に向かうために、記憶の遺跡に預けた過去を。 それはさながら、小さな鑿一つでただの石材から精細な石像を作り上げるようなものだ。 図面も手本もない。あるのは忘却にまみれ、錆びついた指の記憶のみ。 それを以て、錆を少しずつ払い、恐る恐る削りながら、 かつての、聖女になる前のアナスタシア=ルン=ヴァレリアを形成していく。 やり直しなど出来ない。作りだそうとしているのが自分自身の過去である以上、 誤謬があったとしてもその真贋を裁定することはできない。 脳は、平気で嘘をつく。記憶に曖昧なところがあれば、一時の納得のために簡単に適当な想像で欠落を埋めようとする。 だからアナスタシアは、慎重に慎重に、薄氷を踏むように遺跡に潜っている。 嘘などつかぬように、真実だけを求めて、記憶に向かい合っている。 だから、ストレイボウ<私>は何も言わずその場を去った。 理解できるから、何も言わない。これは彼女にしか出来ない戦なのだ。 指の精度は技術者にとって命運を分かつものなのだと知っているが故に。 ストレイボウは、空に翳した自分の指を見つめてため息をついた。 オルステッドや、ヘクトル達ほど太くはない指は、それでもアナスタシアに比べれば大きい。性別の差だった。 (悪いな。俺じゃ、首輪の解体はできない。歯痒いだろうが、許してくれ) 指を見つめながら、此処にはいない誰かに、記憶<ココ>にいる彼女に、謝罪した。 ストレイボウがいずれ来る時に向けて備えていたのは、3つの書物を読み明かすこと。 業火の理、マリアベルの遺言、そして――“彼女の記憶”を。 瞼を閉じて、己の内側へと深く深く沈んでいく。肺から空気が抜けきったあたりで、瞼の内側の色が変わる。 自分の知らない風景の光、自分の出会ったことのない人の音、自分が触れることのなかった命。 やがて、その色彩は収束し、自分の知る世界へとたどり着く。 ストレイボウが看取ったその残響を名を、ルッカ=アシュティアと言った。 戦いの中では生き延びることに無我夢中で、その事実の意味に気づく暇もなかったが、 この凪いだ空の下で一呼吸を置けば、改めて自分の中にルッカ=アシュティアの記憶があることを認識できる。 原理は理解できないが、その事実を認められないほどストレイボウは青くはない。 おそらくはあの石――考え得るルッカとの唯一の接点――が、もたらしたものなのだろう、と予測していた。 未経験の記憶が自身に混入するという異常事態を前にしても、ストレイボウは平然――とまではいかなくとも受け入れている。 “封印した記憶を統合する”ならばともかく“まったく新しい記憶を入れる”のならば、その負荷は尋常ではない。 二十年しか生きていない精神<コップ>には、二十年分の記憶<水>しか注げないのだ。 無理に注げば、本来入っていたはずの水が零れてしまう。 だが彼の魂魄は、死してなお心の迷宮で滅んだルクレチアを眺め続けてきた。 気が遠くなるほどに、永遠とすら錯覚するほどに。罪の意識に狂いかけながら。 彼の心は確かに弱かったが、逆に言えばその弱い心は永遠の時間に晒されながらも壊れなかった。 皮肉にも彼は常命の人間では得られない強靱な精神性を有していた。 その広がったココロ全てを飽和させていた罪の意識が僅かでも改まった今ならば、 二十年にも満たない少女の記憶は広大な図書館の書架に納められた一冊の新しい古書にすぎない。 ストレイボウは見るものから見れば異常とも言える自心の剛性を自覚することなく、ルッカという名の古い本を読んでいく。 虫食いもあり、水に濡れて頁が合わさってしまっている場所もある。下手な観測は対象を歪めてしまう。 それでもアナスタシアのように慎重に慎重を重ね、ストレイボウはこの島でのルッカ=アシュティアの記憶までは読み終わっていた。 ルッカ=アシュティアがどのような人物だったかは、カエルに聞いてその触りは掴んでいる。 その際、ストレイボウは彼女の記憶についてカエルに伝えなかった。 聞かれたカエルは多少訝しんでいたが、どうやらアナスタシアとのけじめをつける覚悟を決めたあとだったらしく、深く追求はされなかった。 もっとも、その事実を告げたとしても、ストレイボウはルッカ=アシュティアではない。 魂の欠片があるわけでもない、記憶に付随する生の感情があるわけでもない、 纏う骨と肉の大きさも違うから工具を扱う経験も再現できない。 本当にただの記録。ストレイボウが持っているのはそれだけでしかないのだ。 マリアベルを殺めた罪をアナスタシアが許すことができたとしても、 ルッカを殺めたカエルの罪を赦す資格は己にはないのだ。 (だからこそ、彼女の記憶を無駄にするわけにはいかない) ストレイボウは背を起こし、対面の岩に壁掛けた2つのアイテムをみる。 ゲートホルダーと、ドッペル君。この島に喚ばれる前の彼女の記憶を喚起する触媒として持ってきたものだった。 それを見つめれば、完璧にとは言わないまでも、朧気に彼女の歩んだ冒険の軌跡が浮かぶ。 このゲートホルダーは、きっと彼女の冒険の中心にあったのだろう。 そして、この人間そのものとしか思えない人形に、ストレイボウは思う。 クロノ。彼女の冒険の記憶には、常にこの少年がいた。どの時代にも彼がいた。 きっと、彼は、彼女の中心に限りなく近い場所にあったのだろう。 三人の誰が欠けても始まらなかった。彼と、もう一人の王女と、彼女がこそが……きっと時を越えて星を救う冒険の核だったのだ。 (まるで、俺たちと同じ…………いや、邪推か) 彼女の立ち位置に自分を観るなど、彼女に失礼だ。 不意に生じた妄想を振り払い、クロノとゲートホルダーを符丁として彼女の冒険を読み進める。 海底神殿、死の山、太陽石に虹色の貝殻、そして黒の夢。 冒険の終わり、その果てに――『大いなる火<ラヴォス>』はいた。 (ラヴォス……星を喰らうもの……そんな化け物までも、お前は敗者として喚んだというのか、オルステッド) 国一つを滅ぼしたストレイボウとは言え、星というスケールには流石に面を食らう。 だが、いつまでも惚けている暇はなかった。 マリアベルの警告に拠れば、ラヴォスがこの島の中枢に組み込まれている可能性が高いのだ。 カエルがあの雷の刹那に識った事実も、それを補強している。 (戦力として使う……違うな、そんなモノ使わなきゃいけないほど、お前は弱くない。やっぱり、省みさせる為か) オディオはーー否、オルステッドは完璧だ。力が足りないだとか、 力を欲するという発想から一番遠い場所にいる彼が戦力を喚ぶとは考えられない。 全ては、墓碑に銘を刻むために。 誰もが自分が立つ場所を省みるようにと、祈りを込めて地下墓地を創ったのだ。 (今、それを考えても仕方ない。全てはあいつの前に立ってからだ。だが――) オルステッドの行為の是非について巡り掛けた想いを、ストレイボウは頭を振って押さえ込む。 それ、に関して論じてはならない。その始まりを作ったのは、他ならぬ自分自身なのだから。 だからこそ、ストレイボウは考えるべきことを考える。 オルステッドにラヴォスの力を得ようとする思惑はないだろう。 だが、彼はどうだろうか。 「…………分かっているのか、ジョウイ。お前が何を手にしようとしているのか」 ジョウイ=ブライト。あの混戦の中で、カエルの持つ紅の暴君を奪い去った少年。 彼はカエルと魔王が潜伏していた遺跡にいるのだろう。 あの遺跡に巨大な力が眠っていることは、雨夜の時点でカエルが告げていた。 恐らくは、そこに行くまで含めて彼の絵図だったのだ。そう思わずには居られないほど、あの逃散は鮮やかすぎた。 10人近い戦力を前に敵対し生きて逃亡できるほどの魔剣の力では飽きたらず、遺跡に眠る力を手に入れようとしているのだろう。 だが、恐らくはジョウイはその力が何であるかを知らないはずだ。 ルッカがジョウイにラヴォスの情報を伝えていない以上、彼がラヴォスについて知る手段はほぼないのだから。 星に寄生し、根を張り、あらゆる生命・技術を吸収し、進化する鉱物生命体。 確かにその力は絶大だ。だが、赤い石に魅せられたものがどうなるかを、ストレイボウ<ルッカ>は古代で知っている。 アレは与えるものではない。奪うものだ。一度魅せられれば、何もかもを奪い尽くされ、下僕とされてしまうだろう。 「そんな力で、理想を形にするというのか」 対峙した時、魔剣で変貌したジョウイは己が目的を告げた。 ストレイボウの憎悪で揺るがない理想の国を、憎しみのない楽園を創るため、オディオを継承する。 そこに一切の虚言は無い。本当に、本気で、それを創るために、彼は力を求めている。 そしてその赤い石と紅い剣の力で、俺たちを討つ心算だ。 人の身に過ぎた力を得たジョウイには時間がない。 ピサロの見立てでは、日没まで。必ず、それまでに彼は動かざるを得ないのだ。 (ならば、俺たちがするべきは……) 1.首輪を外し、日没まで耐え切る。 2.首輪を外し、遺跡に向かいジョウイを倒す。 3.首輪を外し、ジョウイを無視してオディオを探す。 ストレイボウは持ち前の論理性で、自分達が取り得る行動を3つにまで絞り込む。 枝葉末節はさらに分派するだろうが、大凡この3つだ。 1は文字通りジョウイの自滅を待つというもの。 現在ストレイボウたちは禁止エリアによって包囲されているが、アナスタシアが首輪を解除出来ればその囲みはなくなる。 いくらジョウイが正体不明な力を持とうが、6人が連動的に動ければ逃げ切りは不可能でもないはずだ。 ジョウイが持て余した力に潰されてから、ゆっくりオディオの居場所を探せばいい。 それに、ジョウイも決して殺人快楽者ではない。殺しきれないと悟れば、無駄を避けて協力する目もあるはずだ。 懸念があるとすれば、ジョウイが復活させる力が自律型――たとえばモンスターのような――であった場合、 ジョウイが死しても動き続ける可能性くらいか。それでも、ジョウイがいなくなれば対処の仕様もあるだろう。 2は先手を取ってジョウイを討つというもの。 ジョウイの懐に飛び込む格好になるが、引き替えにラヴォスの復活を阻止できる可能性がある。 魔王をしてオディオ以上やもと警戒するほどの力、それを復活させることは愉快な状況ではない。 万に一つ――ラヴォスをオルステッドが“終わった後に使う”可能性を考えれば、 ジョウイが罠を張って迎え撃ってくる危険性を差し引いても釣りがくる。 3は、完全な電撃戦。ジョウイもラヴォスも無視してオディオに対面し、この催しそのものを終わらせてしまうこと。 最悪、ジョウイとオディオを二正面で相手にすることになりかねないが――決着は最も早いはずだ。 「尤も、肝心要のアイツの居場所が分からんことには、画餅に過ぎないか」 苦笑を浮かべながらストレイボウは仰向けになった。 詰まるところ、気が急いているのはイスラ達だけではなかったということだろう。 何を話せばいいのかも定まっていない癖に、向かい合いたいという気持ちだけが鞘走っている。 無理もない、と溜息を吐く。 友として、恋敵として、仲間として、宿敵として、罪人として、 生まれ、死に、そして今に至るまでの道の向こうには常にオルステッドがいた。 どれだけ近づいても届かないと思ったその背中。 その背中に、今までにないほど近づいているという確信がある。 俺は、どうすればいいのだろうか。 アイツと向かい合い、その先にあるものをどうしたいのだろうか。 近づく約束の時に向けて、俺は目を閉じ、話したいと思う相手を思い浮かべた。 ――――・――――・――――・――――・――――・―――― [アナスタシア] [ピサロ] ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 『カエル』 《グレン》 話し相手を △ 選んでください 「???」 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ▽ [アキラ] [ストレイボウ] ――――・――――・――――・――――・――――・―――― 「――――そうだな。まだ、お前の話を聞いちゃいない」 自分自身を省みるようにして、ストレイボウが思い浮かべたのは、一人の少年だった。 ジョウイ。 何が彼を其処まで駆り立てているのか、ストレイボウには見当がつかない。 ただ、皮肉にもルッカの記憶には、ジョウイを知るものが多くいた。 リオウ、ナナミ、ビッキー、そして最後に魔王との闘いに闖入してきたビクトール。 純粋に出会ったと言うだけならばルカ=ブライトも。 話をする時間などほとんどなく擦れ違いのようなものばかりだったが、ルッカはジョウイに所縁ある全ての人物に出会っていた。 誰一人として、ジョウイを警戒していたものはいなかった。 ルカ=ブライトを警戒こそすれ、ジョウイを敵だと思っていた者はいなかったはずだ。 一体、ジョウイ=ブライトというのは“何”なのか。 ビクトールという男がジョウイとルッカを逃がしたということは、少なくとも信ずるべき何かはあったということか。 (そういえば辛うじてルッカとまともに会話できたビッキーだけは、言葉を濁していたな) ふと、ルッカの記憶を眺めながらストレイボウは思った。 ルッカに自身の知る者を説明するとき、リオウとナナミとビクトールの情報量は多いのに、ルカとジョウイの情報量が極端に少なかった。 知らなかったのか、あるいは“語りたくなかった”のか。 何にせよ、はっきりしていることが1つ。 ルッカの記憶を継承したストレイボウは、この場の誰よりも残る2人の敵対者に縁深い者になっていた。 なにより、あのカエルとの決着の時、怯んだ自分の背中を押しとどめてくれたのは、他でもないジョウイだった。 たとえそれが紅の暴君を手に入れるための演技だったとしても、あの血塗れの叫びが嘘だとはストレイボウには想えない。 「一方的に吐かれた言葉で、何が分かる。一方的に聞いた言葉で、何が伝わる。 俺はまだ、オルステッドとも、お前とも会話しちゃいない」 ストレイボウの望みは、彼らにしたいようにあってほしいということ。 そしてそれは、ジョウイさえも例外ではない。 一方の視点にだけ立って全てを断じてはならない。 真の決断とはそんな安易なものではない。 ジョウイの願い。それを理解せずして、決断も何もない。 だから、願った。距離も、禁止エリアも、己を取り巻く状況全てを省みずただ純粋に想った。 ――――果たして、それは奇跡だったのか。 ヴン、と僅かなノイズが耳を穿ち、ストレイボウは背を起こして目を開く。 其処には、ほんの小さな、本当に小さな『穴』があった。 蒼くどこまでも蒼く渦巻く穴は、次元の底まで届くかと錯覚するほどに深い。 そして、その穴を、ストレイボウ<私>は知っていた。 「ゲート……?」 ゲート、時間と空間を越えて通じる世界の穴。ルッカ達の運命を大きく変えた扉が、そこにあった。 「なんで、いきなりここに……」 目の前の光景に、ストレイボウは驚きを隠せなかった。 ついさっきまで無かったものが、いきなり目の前に現れたのだ。 まるでストレイボウの話を聞いていたかのように。 だが、驚嘆の時間などないとばかりに、ゲートはその形を歪め始めた。 傷口をふさぐようにして、ゲートが収縮していく。 「くっ」 ストレイボウはとっさにゲートホルダーを起動させ、ゲートを励起状態へ引き戻す。 だが、イレギュラーなゲートであるが故か、保持力を越えて収縮をしようとしている。 「くそッ、出力限界解除! おい、皆――――うおぁああああ!!!」 ストレイボウは手慣れた所作でゲートホルダーの力を限界以上に引き出し、ゲートを固定させようとした。 だが、それが逆にゲートを過剰励起……暴走させ、ストレイボウを飲み込もうとする。 「なんで暴走――ん、首輪が3つ光って――4つ……?――ああッ!!」 参考までにと拝領した、アナスタシアが分解し終えた首輪の中の感応石を見て、ストレイボウは気づく。 ゲートを安定させるゲートホルダーではあるが、それには条件がある。 それはゲートに入れるのは『3人』までということ。4人以上で入ればゲートは安定を失いまったく別の場所へ飛ばされてしまう。 感応石、人の意志を伝える石を持っていたストレイボウは、図らずも1人であり4人だった。 「くそ、俺は、こんなところで死ぬわけには……ッ!!」 叫ぶこともままならず、がむしゃらに装備をかき集めながら、ストレイボウはゲートに吸い込まれていく。 行く先は時の最果てか。そうであろうがそうでなかろうが、今はまだ死ねないのだ。 今は、まだ。 長い長い時流に曝されて散り散りになった精神が浮上する。 一瞬とも永遠とも思える時の狭間を抜けたストレイボウの視覚に映ったのは、町だった。 「ここは…………」 整備された石造りの街路、整然と並んだ民家。 「こ、こは…………」 ストレイボウの両脇には、鳥の形をした噴水が水を湛えている。 「こ、こ、は…………ッ!?」 落ち着いたはずの呼吸を再び乱れさせながら、ストレイボウは目を泳がせて正面を向く。 そこに聳えるは、白亜の城。城と呼ぶにふさわしい荘厳な意匠をストレイボウは知っている。 忘れるわけがない。忘れていいはずがない。この手で終わらせた王国の名前を。 「―――――――ルクレチアだとォッ!!」 ルクレチア王国。魂の牢で永劫見続けたあの地獄が、寸分違わぬ姿でそこにあった。 ストレイボウは唾を飲み込み、目を見開く。 錯覚ではない。これは、紛う事なきルクレチアだ。 膝が笑い、歯の鳴る音が止まらない。立つことすらままならず、 ストレイボウは広場の中央で――あの武闘大会の会場だった――尻餅をついてしまう。 無理だった。頭がいくら否定しようとしても、全神経が屈服している。 「な、なんで、あそこに、戻ってきたって」 己の罪そのものを前に、正常な判断など叶うべくはずもなかった。 だが、ほんの僅か、あの島で経たほんの僅かの何かが、ストレイボウに気づかせる。 空がどこまでも黒く、噴水はどこまでも濁り、城壁は骨のように白い。 余韻すらない。ここは、どうしようもなく『死んでいる』のだと。 「いったい、此処は――」 そう言い掛けたストレイボウの口を止めたのは背中を引く妙な感触だった。 マントの裾を引かれたような感触に、ストレイボウが背中を向く。 手だった。小さな、小さな子供の手が、街路から生えていた。 生えた手が、無邪気に、母のスカートを引くようにしてストレイボウを引いている。 「あ、あ――あああああ”あ”ッ!!!」 それにあわてて多々良を踏みながら飛び退き、家の壁にぶつかる。 だが、そこには石の堅さは無かった。抱き留めた腕の柔らかさだけがあった。 「うあ、く、来るな、来るんじゃないッ!!」 理解も納得も超越して、ストレイボウは子供のように腕を振って飛び跳ねる。 鳴り叫ぶ心臓と呼吸にかき乱されながら、ストレイボウは広場の中央に立って周囲を見渡す。 何が家だ、何が町だ、何が城だ。これは肉だ、これは血だ、これは骨だ。 城壁が変化し、身を鎧った兵士になる。町が変生し、人間になる。 ストレイボウは知っていた。覚えてしまっていた。 オルステッドを勇者と讃えた兵士達、オルステッドの出陣を見送った国民達。 オルステッドを捕らえようとした兵士達、ストレイボウに扇動されてオルステッドを魔王と蔑んだ国民達。 彼の憎悪が生み出した全ての結果が此処にあった。 ストレイボウは確信する。 ここはルクレチアですらない。ルクレチアという形に鋳造された死そのものだ。 彼らはストレイボウをじっと見つめ、ゆっくりと歩いてくる。抱き留めるように手を広げながら、何の敵愾心もなく。 当然だ。彼らは真実を知らない。否、真実は死したときに決している。 彼らにとって、彼らを殺したのは魔王オルステッドで、 ストレイボウは魔王に殺された哀れな“同胞”――――共にこの宇宙を構成する細胞なのだ。 だから、何の敵意もなく、何の恨みもなく、ただ同じものであるが故に、ストレイボウを迎え入れる。 あるべき場所へ、我らと同じ場所へ、帰るべき場所へと。 「すまん……すまない……ごめんなさい……ッ!!」 もはや立つこともままならない有様で、ストレイボウは尻餅をついたまま後ずさる。 アレに抱かれたら、取り込まれる。そう分かっていても、ストレイボウは何も出来なかった。 彼らに何が出来る。何も出来はしない。何も出来はしまい。 心をどれだけ改めようが、自分を改めようが、彼らは変わらない。 今ここで全ての真実を暴露しても、彼らに何の意味も付加できない。 自分を変えることはできても、彼らを変えることは出来ない。 自分は今“生きていて”彼らは“死んでいる”からだ。自分は勝者で、彼らは敗者だからだ。 死せるものに、終わってしまったものに、生あるものの手は届かない。故に報いることはできない。 ――――強奪者どもよ。 ――――屍の頂点で命の尊さを謳う滑稽さを自覚せよ ――――なれの果てとなった“想い”を足蹴にして、自身の“想い”を主張するがいい 震え砕けかけた頭で、ストレイボウはオディオの、オルステッドの言葉の真を理解した気がした。 勝者が敗者に出来ることはただ一つ。共に敗者として墓碑に名を刻むこと。 死して共にあることだけだ。 「でも、でも…………た、頼む……」 だが、ストレイボウは震える唇を動かし、辛うじてつぶやく。 「もう少し、待ってくれ…………俺は、俺は…………まだ、まだなんだ……」 死に包囲された中で、このまま墓碑に沈む訳には行かないと、哀願する。 自分はまだ何にも成れていないのだと。このまま其処に戻るわけには行かないのだと。 身の程を知り尽くしてなお、そう懇願した。 死都はその願いなど無視してストレイボウを取り込もうとする。 それはもう本能――否、ただの機構なのだ。生あるものの声で死は変化しない。 それでもストレイボウは叫びながら、死に沈みゆく中で手を伸ばす。 「俺は、まだ、オルステッドに何一つ応えていないんだ……ッ!!」 その時、その手を掴むものがいた。ストレイボウの片手を握る小さな両手の感触を、ストレイボウは感じていた。 「!?」 驚愕と共に、ぐい、と引っ張られ、ストレイボウはルクレチアへと浮上する。 「い、いったい、って、うああ!」 何事かと口にするよりも早く、再び腕を引かれ、ストレイボウの体は南に送られる。 よろよろと足をもつれさせながら、手を引かれたストレイボウは無数の住人が遠くなっていくのを見ていた。 彼らはストレイボウを追おうとはしていない。“してはならないと命令されたように”。 だが、そんなことよりもストレイボウは、手を握った誰かを確認しようと前を向こうとする。 「き、あなたは――」 【サルベージポイント1500mpz――――繋がったッ! 正門から出て下さいッ!!】 そう声をかけようとすると脳裏に直接声が響き、前方の正門が、オルステッドと共に旅立った始まりの門が眩い光を放った。 掴む誰かの姿は影すら映さず、ストレイボウの意識は門の向こう側へと送還される。 残ったのは、その手に伝わった冷たい柔らかさだけだった。 「ぶはぁ!!」 ストレイボウが泥の中から顔を出す。 息も絶え絶えに周囲を見渡せば、そこはルクレチアなどではなく、無限に広がる碧き泥の海だった。 「い、今のは幻か?」 夢でも見ていたのかと一瞬頭をよぎるが、すぐに首を振って否定する。 あの否応のない死の感覚と、手の感触が残っていた。 「K――QPpZQKKQuuuuqZiziGxuZoooppZqqqxuiii!!!!」 それ以上の思考を遮るように、鳴き声のような流動音と共に泥が戦慄く。 異物を検知した、あるいは同胞を捕捉したのか。 どちらにしてもやるべきことは同じと、本能に従って泥に飲み込もうとする。 「ラ、ラヴォス!?」 その形態の多様性に、ストレイボウは無意識にそう叫んでいた。 ラヴォスはその鈍重な外見に反し、あらゆる進化の方向性に適応できるようになっている。 ならば、この無形の泥は、ラヴォスの肉としてこれほどふさわしいものは他にない。 だが、そんな思考はストレイボウの命を長らえさせるのに少なくとも今は何の役に立たない。 触手と化した泥が、ストレイボウめがけて疾走する。 が、突如ストレイボウの眼前を横切った黒い何かが、その泥を阻害する。 「た、盾ッ!?」 「外套<マント>――輝きませんが」 ストレイボウと泥の間に立つはジョウイ=ブライト。 白貌と片目を覆う銀髪――抜剣の証を携えながら、かの男を守るようにして黒き外套を靡かせている。 「呼ばれて刃を押し取り来てみれば……何をしているんですか」 否、比喩ではない。武器も紋章も携えず困り顔をしてみせるジョウイの代わりとばかりに、 その身を鎧った魔王ジャキの外套が泥を弾いているのだ。 「その魔力――魔剣の力を、徹しているのかッ!?」 「抜剣覚醒の余録です。児戯のようなものですが、生まれてすらない子供にはこれで十分」 ただの布であるはずの外套を満たす異常の魔力を感じ取ったストレイボウに応えるように、 外套がストレイボウとジョウイを中心とした周囲を一気に薙払う。 血染めのような外套が、その白き内側へと踏み入らせぬとするように。 泥が形状を喪った瞬間を見抜き、彼の外套はその裾を泥に突き立てる。 そして、その接触を介してジョウイは泥と共界線を接続した。 「――――ッ! ……餓えているんだろう……僕、モ、同ジだ……ッ…… もう少し、もう少し待ってくれ……もうすぐ、“揃う”かラ……」 喉を裂いた穴から漏れるような声で、ジョウイは泥の想いを汲み取る。 脂汗を流し血管を浮き立たせながら、その飢えを、その渇きを、抱きしめるように共有する。 「必ず、あなたを、連れて行く、から……ッッ!!」 その宣誓と共に、泥は力を失ったように海へと形を変えていく。 泥の意志など、想いなど最初から無かったかのように。 想いの果てに凪いだ海で佇む外套の少年のその有様に、ストレイボウは、言いようもない悪寒を覚えた。 時系列順で読む BACK△156 罪なる其の手に口づけをNext▼157―1 さよならの行方-trinity in the past-(後編) 投下順で読む BACK△156 罪なる其の手に口づけをNext▼156 さよならの行方-trinity in the past-(後編) 156 罪なる其の手に口づけを カエル 157-1 さよならの行方-trinity in the past-(後編) 152 天空の下で -変わりゆくもの- ストレイボウ 151 世界最寂の開戦 ジョウイ ▲
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/343.html
抗いし者たちの系譜-再始の聖女- ◆iDqvc5TpTI ――その焔に、私は全てを奪われた。 全ては、全て。 自分を可愛く着飾りたい。 おいしいものを沢山食べたい。 家族とたわいのないおしゃべりをしたい。 友達ともっと遊びたい。 恋人と手をつないで歩きたい。 あんなことやこんなこともしていつかは子をなしたい。 そんな女の子なら誰しもが一度は描く囁かな夢。 なんら特別なこともない、平穏な、ただの日常。 そのどれか一つすら、アナスタシアには叶えることができなくて。 最後にたった一つ残った死なせたくないという願いを護るために。 最初に抱いた死にたくないという願いさえも奪われた。 (私は、『わたし』であることを、奪われた) だからだろう。 アナスタシアは震えていた。 カタカタと、カタカタと。 みっともなくも、全身を震わせていた。 全身を濡らしていた川の水などとうに蒸発しているのだから。 今、彼女の身を濡らしているのは恐怖の汗に他ならない。 再誕した焔の厄災――紅蓮は。 かつて対峙したロードブレイザーと比べるのもおこがましい程衰えているというのに。 アナスタシアは、全盛期のロードブレイザーに立ち向かったあの頃ですら感じたことがないような恐怖に。 為す術もなく全身と全心を犯されていた。 カタリ。カタリ。カタカタカタ。 恐怖に侵されているのはアナスタシアだけではなかった。 剣が、聖剣ルシエドまでもが震えていた。 それは、彼女の身体の震えが、両手を伝い剣を震わせているということか。 違う、そんな物理的なものだけではない。 アナスタシアが手にしているのは、ただの剣ではない。 ガーディアンブレード――読んで字の如くガーディアンが変化した剣だ。 手にしたものの心の影響を大きく受けてしまうのだ。 (――ッ。いけないッ!) なればこそ、この始末。 聖剣ルシエドが軋みを上げる。 ルシエドを成り立たせる感情は“欲望”であって、“恐怖”ではない。 むしろ負の感情である“恐怖”では、デミ・ガーディアンである厄災の力となってしまう。 「『おや、おやおや、おやぁ? 私の口の中に広がるこの香しき風味は正しく恐怖! この俺自慢の長き舌でなければ絡めとれぬほどの無尽の恐怖ッ! 』」 新生した焔は、宿敵であるはずの聖女から、己に利する力を感じ取り、心底可笑しそうに声を張り上げる。 人間の負の感情を力とするかの者が言うのだ。 アナスタシアが、今この瞬間に抱いている恐怖が、無尽というのは、あながち嘘ではないのだろう。 無論、宿敵たる剣の聖女の心を揺らすためのブラフという可能性もある。 「『はてさてこれほどのご馳走を私に振舞ってくれるのは何方様と見回してみれば、な、なんっとッ! そこにいらっしゃるは聖女様! これは異な事! 愉快痛快快刀乱麻! 恐れていると、恐れているとッ!?』」 しかしながら、他ならぬアナスタシア自身が、紅蓮の言葉は真実なのだと認めてしまっていた。 そうだ、その通りだ。 アナスタシアは恐れている。 「『そんなはずはねえよな、そんなはずはねえよなぁッ! 貴様は勝者、私は敗者ッ! 貴様は英雄だ、俺が求めてるように身を犠牲にしてまで世界を救った英雄様だッ!』」 あれほどまでに求めていたはずの過去の自分、その再現が。 行き着く場所にまで、行き着いてしまうことを恐れている! 「『となるとこれは、あれか。敵に塩を贈るという奴か。素晴らしいかな、騎士道ッ! 魔王にそうしたように、俺の全力を受け止めてその上で凌駕したいとッ!?』」 前方の厄災、後方の命。 間に立つのは自分、ただ一人。 人類最後の砦。 唯一の希望。 ここで引けば、誰かが死ぬ。 ここで立ち向かえば、自分が死ぬ。 アナスタシアを成す二つの欲望――“死にたくない”“死なせたくない” その二つを同時に叶えることの能わない善悪の彼岸。 選ぶしかないのか、自分か他人かを。 「『よかろう、受けて立つ。元よりそれこそが俺に残された二つの宿願のうちの一つ。 全てを殺し去った後に、決着を。決着をつけるために、全てを殺すッ! さあ、さあ、さあ、剣の聖女よ、俺が望みし英雄よ』」 ああ、ああ、あああ! なれば、こここそが境界線。 アナスタシア・ルン・ヴァレリアの過去と未来の、死と生の、聖女と少女の境界線――This is the END!! 「『今一度、護ってみせろッ! 死んでみせろォォォオオオオオオッッ!』」 主の意を受け、カエルフレアが起動する。 「紅ううるぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」 カエルフレアの大口から、暗黒の焔が放たれる。 ネガティブフレアだ。 アナスタシアはその焔を防御するということが、どういう意味かを知りながらも、避けることが叶わなかった。 彼女の後ろには、ちょこが、ジョウイが、何よりもゴゴがいるのだ。 人々の悲しみや怒りを喚起させる魔炎はたとえ火の粉であってさえ、今のゴゴに猛毒足りうる。 だけど。 「ああああああああああああああああッ!」 「……おねーさん!?」 果たしてそれが猛毒なのは、ゴゴにとってだけだろうか。 聖剣を盾に焔を凌ぐアナスタシア。 目を逸らしたくとも逸らせない視線の先には、紅蓮が――ロードブレイザーにして、カエルたる者がいる。 遥か昔に彼女の命を奪い、今この現世で親友の命を奪った仇がいる。 そのような存在を前にして、怒りも悲しみも抱かないというのなら。 それこそ、聖女と呼ばれるような人間だけであろう。 アナスタシアはそうではない。 自身が散々嘆いてきたように、彼女は、聖女などという存在ではない。 人間だ。 ただの人間だ。 泣きもすれば怒りもする、ただの人間なのだ。 「大丈夫、大丈夫よ、ちょこちゃん。 お姉さんはこれくらい、平気へっちゃらよッ」 どんな時でも諦めなかった一人の少女の口癖を借りて、精一杯強がるも、アナスタシアの心中は刻一刻と弱気へと傾いていた。 (『貴女はマリアベルさんの仇を取りに行くものだとばかり思っていました』かあ。 ジョウイくんには、ほんと、痛いところをつかれちゃったなあ) ゴゴを、ユーリルのイノリを、護りたかったというのは嘘ではない。 それは確かにアナスタシアをして、強者たる魔王と一戦を交えさせ、乗り越えさせる程の願望ではあった。 けれど同時に、それは“逃げ”でもあったのではないか。 アナスタシアは、わたしらしく、自分らしくありたかった。 マリアベルの親友として、マリアベルの大好きなアナスタシアでありたかった。 そのアナスタシアは、怒りや悲しみから戦いを放棄して、護られてばかりいる少女でもなければ。 怒りと悲しみのままに戦う少女ではなかった。 ああ、そうだ、そうなのだ。 アナスタシアは戦いたかった。 奪うのではなく、護る為の戦いをしたかった。 だから、アナスタシアはゴゴを護ることを、如いては魔王と戦うことを選んだ。 怒りや悲しみ、そして憎しみに負けて、奪う戦いをしてしまいかねないカエルではなく。 リルカやブラッドのことがあるとはいえ、比較的負の感情に飲まれないで済む魔王と戦うことを選んだ。 それはなんて愚かなイージーモード。 明日を生きることにすら事欠く荒野の住民たる少女に、そのような甘えが許されるはずはないというのに。 そのツケがこのザマだ。 カエルにしてロードブレイザーでもある紅蓮は、アナスタシアにとって完全なロードブレイザー以上に、最悪の相手だった。 闇の焔に誘発され、自らの覚悟に疑念を持ってしまったアナスタシアから、護りの加護が失われる。 エアリアルガードだけではない。 輝く盾の紋章による戦いの誓いが破却され、正しき怒りは、大罪たるただの憤怒に堕とされる。 アナスタシアにとっては、前者よりも後者の喪失のほうが辛かった。 これでアナスタシアは正真正銘身一つで厄災に挑まねばならなくなった。 共に魔王と戦ってくれた少年が残してくれた力は、随分と心強いものであったというのに。 残り香さえも放射され続ける焔によって消え失せてしまった。 「『ふむどうした。何を泣きそうな顔をしている? 我が焔による浄めでは不満か? 確かに全盛期の私を知る貴様にとってはこの程度、ただのぬるま湯に過ぎぬか。 それは失礼したッ! 俺も高みの見物などはせず、薪をくべさせてもらおうではないかッ!』」 その上、駄目押しとばかりに浴びせかけられるフォルブレイズの業火。 アシュレーに倣って聖剣ルシエドを二刀召喚し、なんとか防ぎきるも、そこまでだ。 もはや聖剣に魔王戦で見せたような圧倒的な力は備わっておらず、攻勢へと転じられない。 次々と迫り来る天をも焦がす焔の壁を祓えず、押しとどめることで精一杯の彼女の前方は、いつしか、紅蓮一色に染まっていた。 さもありなん。 ルシエドが司る欲望は、“明日の自分を欲し望む、現状を変えようとする力”だ。 過去の再現を前にし、過去に縛られていては、その力を発揮しきれはしまい。 いや、そもそも。 “新しい自分”を歩みだしたはずが、“過去の自分”を仮面として貼り付けることを選んだ時点で、アナスタシアは誤っていたのかもしれない。 過去の自分を見つめ直すことは推奨されるべきであろう。 そうすることで、自分が封じてしまっていた自分や、失くしてしまった自分に気付けはする。 しかしながら、“今までの自分”を捨ててしまうのは、大間違いだ。 どれだけ惨めだろうが、どれだけらしくないと思おうが。 “今までの自分”も間違いなくアナスタシア自分自身で、“本当の自分”の一側面なのだ。 それをすてるなんてとんでもない! それでは単に、過去“から”逃げてばかりいたのが、過去“へと”逃げるようになっただけではないか。 なんて、なんて、なんて矛盾! 過去の焼きまわしを恐れているというのに、その過去へと逃げ続けようとするこのジレンマ! だが安心するといい。 矛盾とはいつしか相討ち壊し合うもの。 そしてここには、壊すことに特化した紅蛙がいるではないか。 歓喜せよ、“剣の聖女”よ。 新生とは、破壊をもって成し遂げられるもの。 聖女は過去の再現を恐れているが、魔神はその再現を破壊する。 再現を破壊した上で、更なる最悪を顕現させる! 故にこその災厄。 最悪にして災厄たる紅蓮の焔! 「『さあ、約束をまずは果たそう、宿敵よッ!』」 紅一色だった世界が、黒に染まる。 ロードブレイザーの煤ではない。 影だ。 太陽を覆い隠し、新たな太陽と化したカエルフレアの巨大な影だ。 「『言ったはずだぞ、全てを殺し去った後に、決着を、とッ!』」 「ッ、まさかッ!?」 正解だと言わんばかりに焔の壁が解除されたことで、アナスタシアは最悪の光景を光景を突きつけられる。 赤一色の世界の先には紅蓮しかいなかった。 焔の壁を目隠しにして、紅蓮はカエルフレアを跳躍させていたのだ。 「させな――「『お前の相手はこの私だぞ、剣の聖女よッ!』」くううッ!」 すぐさま身を翻し、ゴゴ達を助けに向かおうとするも、紅蓮に斬り込まれ阻まれたアナスタシアの頭上を、カエルフレアは跳び越えていく。 巨体に似合わぬ軽やかな挙動だが、何もおかしなことはない。 カエルは元来火を噴くものではない。 跳ぶものだ。 跳んで、翔んで、超重量で押し潰しつつ、全身の焔で焼き殺す。 圧殺と焼殺の合わせ技こそ、カエルフレアの本来の用法なのだ。 そしてその猛威に晒されるのはアナスタシアではなく、彼女が護ろうとしていた人達だ。 初めから紅蓮はちょこ達を狙っていたのだ。 護らせないこと。 アナスタシア・ルン・ヴァレリアに護らせないこと。 それこそが紅蓮が描いたアナスタシアへの必勝パターン。 それは単に、アナスタシアに命懸けで彼女の大切なものを守り切られてしまった魔神の意趣返しに留まらない。 アナスタシアの力の源たる欲望は“死にたくない”“死なせたくない”の二つから成り立っているのだ。 では、もしも守る対象を奪うことで、“死なせたくない”という意思だけでも無為にすれば。 二柱により支えられていたアナスタシアの欲望の力は、転がるように激減し、紅蓮の焔を脅かすに足らぬものとなるっ! 「ちょこちゃんッ!」 今更過ぎる呼びかけをすれども、もう遅い。 強襲するカエルフレアを前に、どうしろといえばいいのか。 いかにちょこの魔力が膨大だとはいえ、相手はそれ以上の回復力を誇る厄災の現身だ。 一撃で消しされるものでもなければ、どれだけ削った所で次の瞬間には復元されるのが関の山だ。 半端に撃ちあうのでは、威力を減退させることもできない。 かといって逃げようにも、相手は山一つに匹敵する巨体によるボディプレスだ。 攻撃範囲外まで逃れようとするのなら、要する距離は数秒で駆け抜けられるものではない。 いや、常人離れしたちょこの身体能力なら、或いは、助かったかもしれない。 けれども、意識のないゴゴやこの期に及んで気絶を装うジョウイを連れていくことを少女が選んだ時に、その僅かな可能性すら零となった。 小さな身体で必死になって、ゴゴとジョウイを引きずり走りゆくも、カエルフレアの影からちょこ達は逃れられない。 逃げられない、逃げられない、逃げられない、ならば。 逃れられないのなら、どうすればいいのか。 「だめ、だめなの。ちょこ、一人ぼっちはもういやなの。 みんなにだって、一人になって欲しくないの。ジョウイおとーさんや、ゴゴおじさんを、おうちに帰してあげたいの。 だから、だから、だから」 仲間を放置して逃げれば、自分一人は助かるのに。 それでも、弱い考えを放棄してまでも、繋いだ絆を失いたくないというのなら、どうすればいいのか。 ちょこは知っていた。 ある一人の父親がたどり着いた答えは、確かにちょこの心に刻まれていた。 「死んでも、助けるの…………!」 半端に撃ち合えば再生されるというのなら。 この身全ての魔力を振り絞った全力の一撃で完全に消し去ってしまう他はない。 しかしそれは諸刃の剣だ。 村一つと数多もの魔族を一瞬にして滅ぼし、人の魂を弄び、数百年にわたり溶けることなき幻覚を与え、時の輪廻すら支配する程の力。 それほどまでの力を唯一度に全て振り絞り攻撃に注ぎ込んだならば。 なるほど、魔神さえも滅ぼし得るだろう。 かつて剣の魔女が魔王を打ち破ったように。 圧倒的な力に耐え切れない器ごと滅ぼすことで。 魔王ですら無い魔人が、魔神を滅ぼすには、それでも安い代償だと言わんばかりに。 「来て、アクラ!」 ちょこはその代償を承知した上で、もう一人の自分に呼びかける。 もう一人のちょこたるアクラも、その代償を承知した。 彼女、アクラは、正直、アナスタシア・ルン・ヴァレリアのことが嫌いだった。 父を愛し、その父に見向きもされなかった少女は、それ故に、アナスタシアがちょこのことを、見ていないのだと気付いていた。 だから、これまで、アクラは、アナスタシアの前で、自らの姿である、ちょこの真の姿を晒させることをよしとしてこなかった。 けれど、それもここまでだ。 アナスタシアはぎこちないまでも、本当の自分で、ちょこに向かい合おうとした。 それなら、ちょこもまた、ちょこの全部で、アナスタシアと向かい合うべきだ。 ちょこはアクラで、アクラはちょこで、ちょこはちょこなのだ。 とくと見ておくがいい、アナスタシア・ルン・ヴァレリア。 “本当の自分”になるとはどういうことか、その一つの姿を。 闇の心である“過去の自分”を捨てず、光の心である“今の自分”に受け入れることで、“新たな自分”となった少女の覚醒<アクセス>を。 「闇へと還れ……ヴァニッシュ!」 ――翼が、舞った アナスタシアは思わず息を飲んだ。 ちょこ達にカエルフレアが直撃する光景に、ではない。 宙に座し、円環状に召喚した闇の力をもってして、“灼熱の火球”をただ一人で留める“聖女”の姿を目にしてしまったからだ。 奇しくもそれは、キャストを変えただけの焔の7日間の再演だった。 アナスタシアがあれほどまでに恐れた、“一人の少女が大切な人達を護るために命を捨てなければならない”光景だった。 だというのに。 おかしな話だ。 “剣の聖女”と呼ばれ、更にそのことを忌避していた自分が、あろうことか、他の誰かに“聖女”を重ねるなどと。 しかし同時に、アナスタシアは得心が行きもしていた。 (ああ、そっか。みんなが私に、“聖女”を見るわけだ) 今この瞬間、紅蓮と剣を交えていることさえも忘れて、見入ってしまいそうな程に。 勘違いしてしまっても仕方がないくらいに。 自らの命を燃やし尽くしてまで、誰かを護るために、厄災の蝦蟇に立ち向かうちょこは美しかった。 そして、そんな“過去の自分”の自分の再演たるちょこの姿を綺麗だと思えたから。 アナスタシアは、“過去の自分”のいいも悪いも含めた、全てを受け入れることができた。 “剣の聖女”を認めることができた。 (そうよね。もうわたしは、あなたに認めてもらっていたんだよね、ユーリルくん) “救った”のだと。 望もうが望むまいが、進んでだろうが嫌々だろうが関係ない。 “剣の聖女”は、かつてのアナスタシアは。 一人ぼっちで戦い続けて、その果てに命まで捧げなければならなかったけれど、それでも。 それでも、護りきったのだ。 大切な人達を、護りたかった人達を、救いたかった人達を。 アナスタシアは護ることができたのだ。 それだけで十分だったなんてことは、欲深いアナスタシアには口が裂けても言えないけれど。 でも、“剣の聖女”に、あの日の自分に、ありがとうって、伝えるくらいはいいのではないか。 (ありがとう、私。わたしの大切な人達を護ってくれて。それと行ってきます) たった一言。 自分への、たったの一言で、“剣の聖女”は、一人ぼっちで泣いていた少女は、真に救われた気がした。 だったら後は、これからだ。 捨てるのでも逃げるのでもなく、 (わたしは、私を、剣の聖女を超えていくッ!) 乗り越えるだけだ。 最悪の災厄がもたらした、誰も護れず、アナスタシアも死ぬという悪趣味な未来を。 みんなを護り、アナスタシアも死なないという、伝説を超えたハッピーエンドで塗り替える! それがアナスタシアの目指す“新しい自分”。 みんなを護りきった“過去の自分”と、死にたくないと願う“今までの自分”を合一した先にある“本当の自分”。 マリアベルに誇れるだけではなく、自分自身にも誇れるアナスタシア・ルン・ヴァレリア! その姿を見てもらうためにも、その未来を掴むためにも。 「ちょこちゃん、死なないでッ!」 プロバイデンス。 聖剣の光がアナスタシアとちょこを包む。 すぐさま紅蓮にネガティブフレアで打ち消されはするものの、その祈りは思わぬ形で叶うこととなる。 「――そうだ、貴様にはまだ、黒き死の風は吹きすさんでいない」 ヴァニッシュとカエルフレアがせめぎ合う天と地の狭間に。 ちょこのすぐ傍ら、“炎を纏った大岩”と対峙する形で身を浮かべ。 その男は、ジャキはそこに居た。 時系列順で読む BACK△139-3 私がわたしを歩む時-I m not saint-(後編)NEXT▼140-2 抗いし者たちの系譜-逆襲の魔王- 投下順で読む BACK△139-3 私がわたしを歩む時-I m not saint-(後編)NEXT▼140-2 抗いし者たちの系譜-逆襲の魔王- 139-3 私がわたしを歩む時-I m not saint-(後編) アナスタシア 140-2 抗いし者たちの系譜-逆襲の魔王- ジョウイ ちょこ ゴゴ カエル 魔王 ▲
https://w.atwiki.jp/kirbyrpg/pages/18.html
RPG試作品DL ■アップローダ http //loda.jp/kirbyrpg/ 星のカービィRPG(仮) の試作品ダウンロードはこちらからどうぞ ↓↓↓ WolfRPGエディタ版 [新] http //loda.jp/kirbyrpg/?id=45 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=41 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=39 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=37 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=36 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=30 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=28 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=19 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=17 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=14 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=12 | http //loda.jp/kirbyrpg/?id=10 [古] http //loda.jp/kirbyrpg/?id=7 RPGツクール200x版 http //loda.jp/kirbyrpg/?id=5 本格ストーリー RPGツクールXP版 (元祖) http //www.viprpg.org/up/tkool_etc/file/tkool4vip5891.zip メタ様何やってるんですか ■旧版 ┣ http //www.viprpg.org/up/tkool_etc/file/tkool4vip5858.zip 暫定元祖 ┗ 紛失 似た項目があるけど 統合した方がいいのかな…
https://w.atwiki.jp/2ch_aa_rpg/pages/89.html
【作品名】さいたまなRPG 【作者】さいたま◆DL7MARASAI 【配布場所】第2回紅白モナーRPG http //monarpg.usamimi.info/mona.tm.land.to/ 【使用ツール】RPGツクールXP ■作品解説 第2回紅白モナーRPG合戦出場作品であり、MVP投票3位に輝いた。 ■ストーリー 今日も今日とてモララーはさいたまに翻弄されるのであった。 ■登場人物 <モラストル> 主人公。上司であるさいたまの無茶振りに近い命令をこなす苦労人。 VISTAでプレイできないんだけどぉー。 -- 名無しさん (2009-03-31 13 57 07) 序章戦闘がシビア。店の一つや二つは欲しかった。 -- 名無しさん (2009-12-22 16 36 35) 同感。 なぜか動作が停止する。 -- 名無しぃ (2009-12-30 23 37 47) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/shiftup_rpg/pages/29.html
WEBゲーム攻略・質問掲示板(http //jbbs.livedoor.jp/game/17795/)にあるテンミリRPGスレについてのまとめです。 必ず向こうの注意事項を読んでから書き込みましょう。 現行スレ ※ただいま、閲覧できません。避難所をご利用ください。 過去スレ テンミリRPG(仮) テンミリRPG第二弾 テンミリRPG第3弾 テンミリRPG第4弾 テンミリRPG第5弾 テンミリRPG第6弾 テンミリRPG 第7弾 テンミリRPG ★第8弾★ テンプレ スレッドタイトル(RPGは半角にすること) テンミリRPG第○弾 1(30行まで) ここはテンミリRPGについて、 質問をしたり、独り言のように喋ったり、時には好きなキャラクターについて語り合ったり… そんなスレッドです。 ※ ルール ※ ・荒らしは無視しましょう、反応した人も荒らしです。 ・書き込みをする前に、この掲示板の注意事項を読みましょう。 ・質問をする前に、過去スレやwikiに答えがないかを確かめましょう。 ゲーム画面の下も見てください。 (Win→Ctrl+F、Mac→command+Fでページ内検索できます。) ■関連サイト ◇テンミリRPG 【http //game.shiftup.net/flash/rpg/ex.html】 ◇シフトアップネット 【http //www.shiftup.net/】 ○攻略Wiki(ネタバレ注意) 【http //www24.atwiki.jp/shiftup_rpg/】 ■過去スレ 【http //jbbs.livedoor.jp/bbs/storage.cgi/game/17795/?q=%A5%C6%A5%F3%A5%DF%A5%EA】 ◎書き込みの際の注意事項 【http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/26083/1154830782/19】 ★次スレは 950が立ててください(必ずタイトルに『テンミリRPG』と入れること)。 どうしても立てられない場合は、他の人に頼んでください。同時に複数の次スレが立ってしまった場合は 950、またはそれ以降で一番早いものを使いましょう。 操作方法、よくある質問は 2-5辺りに(必読!) 2 <よくある質問> Q.操作方法が分からない。 A.ゲーム画面の下を見ましょう。 Q.○○ができない! A.まず自力で隅々まで探しましょう、それから過去スレとwikiを読み、それでも分からなかったら質問するようにしましょう Q.敵が強い… A.戦術を極めるか、素直に別の場所でレベルアップして戦力を上げよう Q.転職ってレベル1に戻るんだよね? しないほうが良いと思う… A.レベルが1には戻りますが、場合によっては使える魔法がレベルアップと共に増え、 ステータスも前より高くなっていくので最終的に前より強くなります Q.効率の良い転職の仕方は? A.前回転職したときのレベルよりも高いレベルで転職しなければ、ステータスはあまり増えません 『20→30→40→50→…→99→99→…』のように刻んでいくことで効率よくステータスを増やせるようです テンプレここまで
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/350.html
為すべきを成すべき時 -Friend's Fist with Brave-(前編) ◆wqJoVoH16Y 燃えている。森が燃えている。 かつて自らが隠棲していた森が、不味い味しかしなかった酒器や動植物たちと共に燃えている。 燃えている。城が燃えている。 かつて自らが登城した城が、古くありながらも堅牢を讃えた城壁が、誇り高きあの国旗が燃えている。 その紅い世界に、胸を締め付けられていた。 胸の内から湧き上がる感情がそのまま呪文となって、水の魔力へと変換される。 消さなければ、何もかも燃え尽きてしまう。 だが、水は一滴も出ることはなく、変わりに出たのは黒い焔だった。 火は加勢を経て燃え上がり、山を、橋を、何もかもを燃やし尽くそうとしていた。 やめろ、やめろと声を張り上げる。だが、轟炎の音に阻まれ、その声は自らの耳にすら届かない。 響くのは燃え落ちる木々の割れた音、己が脂を燃やしてのた打ち回る兵士の叫喚。 そして、醜いカエルの笑い声だけだ。 何故、と耳を穿つ声は、どうしようもなく自分そつくりで、耳を塞ごうにも手は動かない。 ――――お前の願いだ。お前が叶えた、お前の願いだ。 ――――殺すと決めたのだろう。国を守ると決めたのだろう。 ――――そのための私だ、そのためのお前だ。 ああ、そうだ。そうなのだ。 消すための呪文が口から出るわけがない。燃やしているのは俺なのだから。 耳を塞げるわけがない。笑っているのは、俺なのだから。 護れる訳がない。殺したいと願ったのは――――俺なのだから。 願いの為に、省みた一切を切り捨てた。そんなものを背負ったままでは、とてもではないが剣を振れないから。 騎士たる誇りを捨て、かつての仲間を斬り、新たな友を捨て、ここまで進んできた。 それよりも重いものを持つためには、捨てざるを得なかったのだ。 捨てて、捨てて、何もかもを捨てて、俺は軽くなった。 だからここはゴミ捨て場だ。軽くなるために捨てたゴミの焼却炉だ。 黒天に白い灰が昇って行く。軽くなったのは俺か、それともあの灰か。 「『死んだのか、魔王。ゲラRaRaラ!! 前に出るとは莫迦な奴原めが。“うっかり先に決着をつけてしまった”ではないかッ!!』」 喉が鳴る。また一つ軽くなったこの身のなんと滑稽なることか。 今更過ぎて、あまりにも馬鹿馬鹿しかった。 周囲を見渡せば、伽藍堂の荒野。 いつのまにか、もう、俺が俺であるためのものすら無くなっていたのだから。 後悔はない。それでも、それは確かにここより生まれた願いだから。 だからもう願いしかない。俺すらなく、ただ願いの為に燃え尽きるまで燃え続けるだけの焔。 たとえそれが誰が願ったのかすら分からない願いだとしても。 ただ、それでも白き灰雲に、茫洋と思ふ。 そこにいる誰かよ、識っているのならば教えて欲しい。 「『さぁさ、順列が逆転したが構うまい。続けようか旧い宿敵、せめて新しい宿敵ほど無様に燃え堕ちてくれるなよッ!!』」 この胸を締め付ける寂寥感、それを堪えてでも為さんとする成すべき事とは、一体。 一体、こいつは、何を願ったのだ? 太陽が照らす荒野の上で、黒焔を舞わせながら剣戟が踊る。 紅蓮の振るう紅の暴君とアナスタシアの振るう聖剣ルシエドが無数の激突を繰り返す。 既に大蝦蟇の滅却は剣を通じて識るところであったが、消滅時の爆煙でアナスタシアはまだ気づけないはずだ。 ほぼ互角の打ち合いにも見えたが、それでも優劣を分けるというなら軍敗は紅蓮にあがる。 こと剣の技量だけで判断するならば、かつて騎士であった者“であった”紅蓮に、アナスタシアが劣れど勝ることはないからだ。 理に沿って急所を狙われる一撃に対し、アナスタシアは防御をするのが精一杯で反撃にまで移れていない。 「『気に要らんな。どうした聖女ッ、先ほどの濃厚な恐怖は何処の抽斗に仕舞ったッ!?』」 悪くない形勢。しかしそれに反して紅蓮に張り付いた笑顔は僅かに翳っていた。 災厄を前にして少女の涙の如く零れ落ちんとしていた恐怖が減っている。 なによりも、紅蓮を見据える瞳が少しずつその震えを収め、真っ直ぐに見抜き始めているのだ。 それは、戦理の優劣を超越してかつて焔の災厄だった紅蓮には何よりも面白くない事態なのだ。 「『後ろを気にせずしていいのか? 燻る灰の向こうでお前の護りたいものが失せているやも知れんぞ! 守れずして生き残るのは、中々に辛いからなァ。胸を掻き毟られるかの如くにッ』」 効果は期待できないが、剣を揺さぶるため、紅蓮はアナスタシアを挑発する。 しかしてアナスタシアの視線、その切っ先が僅かに後方へ反れた。 挑発にではなく、“実体験を伴った”その言葉の中に滲む言いようもない何かに揺さぶられて。 「『反れたな莫迦がッ! 己が醜き姿に吃驚仰天、流れたるは紅い辰砂に油汗ッ!』」 紅蓮は2本の聖剣ルシエドの切っ先を紅の暴君で地面に押さえつけた。 二刀流が一刀流よりも優れているというのは素人考えだ。 刀の位置取り、剣閃の軌道を把握していなければ自分の左右の剣が互いを阻害することもある。 そして、相手が剣に達者であるならば、剣1本で二刀を殺すことすらできる。 アナスタシアが何に揺さぶられたかも理解することなく、紅蓮はその隙を逃すまいと、 自身は水を含んだようにカエル特有のその口を大きく膨らませる。 その中に入っているのは水ではなく、負の感情を物質にまで煮詰めつくした黒脂であるが。 「『テレメンテーナマンテイカ――――油地獄・ガマブレイズッ!!』」 距離を取った紅蓮の口から黒き焔が生じ、高温高圧の焼夷弾となって射出される。 高速で射出される焔はもはや質量を伴った弾丸。剣を封じられたアナスタシアに避けうる術はない。 「させません!」 「『!?』」 しかし、その黒き弾丸は聖女に届く前に払われる。 聖女から距離を取った紅蓮は爛としたその灼眼で逢瀬を阻害した無粋者を睨み付ける。 黄色いリボンを失ってぼさぼさだったはずの赤い髪は、風にそよぎ陽光にその瑞々しさを輝かせる。 すらりと伸びた両の手は太陽の光を掬うためにあるかのようで、 その両脚は肉付きながらも生まれたままの木目細かい柔肌に包まれている。 そのシルエットが持つ曲率は、およそ人体として完全に限りなく近かった。 「ちょこちゃん……」 「これが私の本当の姿です。いままで黙っていて、ごめんなさい」 だが、紅蓮とアナスタシアの狭間に立つその身体は完全なれど人のものではない。 髪を掻き分けて頭部より生える、捩れた双角。豊満な乳房から太腿の付根までを丁寧に覆うのは体毛だろうか。 いずれにせよそれは彼女が紛れもなく“人ならざる者”の証。 人ならざる彼女は背中に、冷たい視線が伝う気がした。 本当の姿で向き合わなかったのは、こちらも同じなのだ。 この姿では、一緒にいられない。この力をふるえば、またひとりぼっちになってしまう。 心の何処かでそう鎖してきたことこそが、彼女をひとりにしてしまっていたのではないか。 アナスタシアが自分を縛っていたのではなく、自分がアナスタシアを縛っていたのではないか。 そんな臆病な私を知って、彼女は離れてしまうかもしれない。 「でも私は――――っ」 聖剣がからりと地面に落ちる。 言葉を遮ったのは、背中より抱きしめたアナスタシアの腕だった。 締め付けるというほどつよくなく、しかし決して手離さぬと込められた力が彼女の胸に伝う。 それは、心を抱きしめるかのように優しい抱擁だった。 「分かってる。分かってるよ、ちょこちゃん。 貴女は、誰よりも優しくて綺麗で――――とってもいい子の、ちょこちゃんよ」 「アナ、スタ――――――」 「約束、したものね。一緒にいようって……」 「うん……おねー、さん……ッ……!」 背中を濡らす涙に、女性は――そして少女でもある彼女は、涙を滲ませた。 その涙を見て、太陽に輝くこの美しき白翼を見て、誰が彼女を“魔”と呼ぶだろうか。 人ならざる者、魔人の娘。アクラでありちょこである彼女。 彼女は人ではない。だがそれ故に、誰よりも完全な女性だった。 彼女達は抱き合った。 聖女としてではなく、魔人としてではなく、 自分の欲望をかなえる力としてではなく、一緒にいられる誰かとしてではなく、 アナスタシアとちょことして抱き合う。 分かたれた、そしてどこかで最初から途絶えていた2人は、 今はもう、何処から見ても仲の良い姉妹にしか見えなかった。 「『GRRRR! 割り込んでおいて随分と親しげに巫山戯るではないかッ!! ……違うだろうッ! 貴様は、私が識る聖女は、勇者とは、そんなものではないッ!!』」 紅蓮の嘲笑、そして怒号がちょこの羽を、アナスタシアの髪を震わせる。 紅蓮の眼に滾るのは明瞭な否定と怒りだった。 あの七日間、聖女はひとりぼっちだったからこそ聖女で、英雄だった。だから美しいのだ。 お前はひとりぼっちだっただろう。私はひとりぼっちだっただろう。 その傍らに誰かがいるということ、それ自体が不純だ。 英雄に、勇者に、傍らに在るべきものなど――――友など要らない。 「『おおッ、そういうことと得心したッ! これは済まぬ聖女、確かに貴様の傍らには一匹狗がいたなッ! なれば化物の一つや二つ飼い直したところで、是非もなし。なれば私もまた飼い殺すとしようかッ!』」 自分の中で疼き合う感情を無理矢理押さえつけるように、紅蓮はその胸に再び紅の暴君を穿つ。 ようやく塞がり掛けた傷を、再び抉り刻んで、自らを死の淵まで追い込む。 口寄せは捧げた供物の量が物を言う。なれば次は、極限の極限まで供物を捧げよう。 もっと薪を、もっと脂を、もっと命を、何もかもを燃やし尽くせ。 「『さぁさ出ませいッ! 理を切り裂きてここに呼べよ魔剣、天下御免の大蝦蟇ッ! その名の如く、万物悉くを塵にかえらせろッ!!』」 どれほど供物を捧げようと私は燃え尽きぬ。願い続ける限り、核となるその願いがある限り。 この身は不滅の焔。全てを燃やし尽くすまで止まらぬ、業の火なれば。 過去の残燃は、現在にある全てを燃やし尽くさんと血と焔を周囲に走らせる。 直に召喚陣は完成し、再び灼熱の大蝦蟇が現れるだろう。 「また召喚するつもりね」 「さっきよりも強大な力を感じます。多分、次は……」 繋がりを解いたアナスタシアとちょこは、紅蓮へと向き直る。 今度の召喚はどうやら先ほどよりも時間がかかるらしい。 だが、それは逆に言えば召喚される蝦蟇が先ほどよりも強力なものとなるということだ。 先ほどの蝦蟇でさえ、魔王との魔法でようやっと消しきれたほど。 いかなヴァニッシュといえど単体では、盾とするにはあまりに心許無い。 召喚が終われば、紅蓮本体もまた動く。アナスタシアはその対応を迫られるだろう。 ならば、一か八か2人の力で、召喚前に紅蓮を倒しきることに賭けるか。 だが、それすらも、あの死にながら燃え続ける紅蓮を殺しきれるかどうか。 あの蝦蟇はおそらく、召喚者の命の量に反比例してその力を高める類の術だ。 仕留め損なえば、最強最悪の蝦蟇に押し潰されるだろう。 「命と引き換えとかはしたくないんだけどな……ちょこちゃん、何かいい手はある?」 「えーっと……もっと頑張って、出てくる前に倒します!」 アナスタシアがどっとため息をついたのには2つの理由があった。 大人の身体に成長(?)したとはいえ、ちょこはやっぱりちょこで、聞いた自分がアレだったな、ということ。 そして、そんなちょこと同レベルの発想しか思いつかなかったということだ。 世界を賭したアナスタシアの戦いに小細工など意味はなかったし、ちょこもどちらかというと力を使われてこそ活きる者だった。 「まあ、やるしかないかッ! 策がないなら、力でってね」 「――――策ならあります」 アナスタシアとちょこが背後へと振り向くと、そこには今の彼女らにもっとも必要なものがあった。 彼女達の力を最大限に発揮する、策を振るうものが、ジョウイ=アトレイドがいた。 「ジョウイ君! 無事だったのね」 「ええ、なんとか起きれました。すいません、肝心なときに力になれなくて……」 「ううん、気にしないで。あ、この子のことは気にしてね。今まで気絶してたのなら分からないかもだけど。 ムチムチプリンを食べたいお年頃とはいえ、小さな踊り子さんに触れるのはいけないことなのよ。 っていうか、この子の(デフコン)Bは既にこの私が先約済みッ!」 心なし偉そうに隣の少女をアピールするアナスタシア。 道化めくことでジョウイの、異形の存在であるちょこへの認識を少しでも和らげようという思いだった。 だが、アナスタシアの思いなど必要なかったのか、ジョウイはちょこへと向き合う。 「ちょこちゃん……なんだね……」 「ええ、そうです。驚かないんですね」 「うん。ここまでいろいろなものを見てきたからね。驚くのも失礼だ」 「あの……その外套は……」 ちょこは恐る恐るジョウイにそれを尋ねる。 気絶する前と後でジョウイには差異があったのだ。肩から首輪を、そして全身を覆うようにして赤黒い外套に身を包んでいる。 それをちょこはよく知っていた。他ならぬ“お父様”――ジャキの身を包んでいた外套なのだ。 「ああ、うん。僕が目覚めた時、魔王は、ゴゴさんに覆いかぶさって死んでいたんだ。 魔王との戦いで傷もいくつかあったし、それに……忘れないように……持って行こうと思ったんだ」 忘れないように。ジョウイの言葉のその一カ所が、ちょこの耳に印象深く残響した。 アクラにとってお父様が忘れ得ぬものであるように、ジョウイにとっても魔王は忘れられないものなのだろう。 ちょこは魔王から受け取った忘れ形見を強く意識する。 受け取った。受け取ったから、だいじょうぶだよと。紡がれた命を見送るように。 「ねえ、スルー? わたしのことスルー? これってなに? 恋のトンネル効果?」 ちょこが魔王の死を噛みしめるなか、アナスタシアはキャッチボールされずに地面に落ちた言葉を見つめながら名状しがたい顔を浮かべた。 今のちょこを受け入れてくれたのは嬉しいが、少しあっさりしすぎではないだろうか。 というより、これだと自分が莫迦のようではないか。 「ちょこちゃん、君のその姿は、自分の意志で前の姿にもどれるのかい? 五行……火や水は、その姿で使えるかな?」 「え、ええ……この姿だと、闇の力が表面化しているので、ヴァニッシュ以外は上手く使えないと思います。 元に戻ることは、念じればできるとおもいますけど」 「ダブルスルーッ!? あ、今のは言葉がすり抜けるのと電子現象のトンネル効果をかけててね」 「よし。今ならあのカエルもこちらには手を出せないだろう。君はすぐに上空に飛ぶんだ。そうしたら……」 「ハットトリックきましたーッ! ごめんなさいッ!! 一度滑ったネタの説明をしてごめんなさいッ!! お願いだからせめて会話して!! お姉さん寂しいと死んじゃうアルビノ種なの、人類のエゴが生んだ愛玩動物なのッ!」 「言ってる意味が分からないです。それより、時間のこと気付いてます?」 やっと返事をしてくれたジョウイの言葉の意味を理解できず、 アナスタシアは言われるがままに、懐から時計を取り出す。 時刻は7時前。とりあえずパン屋なら朝のお客のピークが始まる時間だ。 今日はどんなお客さんが来るのかなとか、あの人は今日は早く、帰って、くるかな……と、か…… 「時 間 な い じ ゃ ん」 アナスタシアは動転のあまりうっすらと鼻水をたらしながら、大きく見開いた目で南の森に目を向ける。 紅蓮のことで気がいっぱいだったが、もうすぐ南のD7が禁止エリアになってしまう。 しかし、まだ南に残った3人が来ていない。 しかも肝心のC7に隣接する森は、カエルフレアの余波で大いに燃えさかり、とてもではないが通れるとは思えない。 このままだと、自分がカエルとの決着から逃げたせいで3人が逃げ遅れたようなものではないか。 「どどどどどどどどどーするのよ! このままだと私と君が殺害幇助の罪でイルズベイルに没シュートよッ。 味噌汁を冷えた御飯にぶっかけた冷や飯よッ!!」 「そうならないために、手は打ちました。後は彼らに任せるしかありません」 「彼ら?」 アナスタシアが涙目で見つめ返したその先には、空を見上げるジョウイがいた。 ジョウイが見つめた先、空に翼をはためかせたちょこが大地を見下ろしていた。 右を見れば森を抉った荒野があり、左を見れば生い茂った森。 そしてそれを隔てるように炎の壁が走っていた。 「このくらいで、いいかな。えーっと、たしか……お父さんが言ってたのは……」 炎の壁に遮られず南の森を睥睨出来る程度の高さで停滞したちょこは目を凝らし、それを慎重に探してみるが、やはり見つからない。 森の中にある以上、やはりこちらから探しに行くことは不可能だ。 だが、それで問題はなかった。ジョウイがちょこに達したのは、彼らを探すことではないのだから。 <デイバックは僕が預かっておくよ。その位の高度まで来たら、元の姿……ああ、仮の姿になるのか。 とにかく子供に戻って、大きな声で南に声をかけるんだ。そしたら“放つ”。それでたぶん、伝わるはずだ> 「大きな声で……なにを、言えばいいのかしら……まあ、そのあたりは、戻ってからでいっか……えいっ」 そのあたりのことを聞いていなかったなと思いながらも、 どこかしら子供らしいおおざっぱさで、ちょこはちょこに回帰する。 時間はない。急いで言わなければ。誰が聞いてもはっきりと分かるように、大声で。 「やっほー!!!!!!」 空に響きわたるその大声と共に、キラッっと、空が輝いた。 子供らしい元気な声が大地に木霊する中、中空に異変が生ずる。 「おう、ヤッホーだッ。男アキラ、ただいま到着ッ!!」 ヒュバという小気味よい音とともに瞬間登場したアキラがちょこに山彦を返す。 その両腕にはむろん、ストレイボウとイスラの姿があった。 「炎に遮られて動けなくなっていたとき、ちょこの声が聞こえたんだ。 それで空を見上げたら、空に水が飛び散っていたことに気付いたんだ」 ちょことアキラにサポートされながら着地したストレイボウが状況を説明した。 カエルの異変に気付いた3人は何とかC7に来ようとしたが、焔の壁に阻まれていた。 時間もなく迂回路もなく、八方塞がりの状態だったところに彼らは見つけたのだ。 空に浮かぶ輝き――――太陽に光ったパシャパシャの水を。 「こっちまでくればほとんど水気はなかったからな。狙う水場さえハッキリしてりゃ、跳んでこれたって寸法よ。 いや、助かったぜジョウイ。あれがなかったらヤバかった」 快活な笑みを浮かべるアキラに、微笑を浮かべるジョウイ。 それをみるイスラの表情だけが、酷く重苦しいものだった。 「『ふ、ふはははは、雑燃が増えたかッ! わざわざ薪を足してくれるとはなッ!!』」 「カエル、目を覚ませ! お前は焔の災厄に、ロードブレイザーに乗っ取られているんだッ!!」 「『喧しいぞ魔術師風情がッ! 私は紅蓮だッ、国の滅びを阻止せんが為、全ての焼滅を望んだ焔だ!!』」 ストレイボウの叫びなど最早関係ないとばかりに、紅蓮は血をまき散らして召喚を続ける。 どうやら南にいた3人も今のカエルがどのような状態にあるかは理解しているらしい。 だが、手短に情報交換を行った3人は現状が最後にみた状況よりも悪化していることを知った。 アキラが2色と称した紅蓮の心は最早何色と称することも出来ぬほど混濁しており、 そしてその混ぜあがった色が決して良い色ではなかった。 アナスタシア達に破れた魔王がちょこを庇って命を散らせたとはいえ、 ヘクトルが北でセッツァー達と戦っているであろうこともある。 なによりも、既に物質化一歩手前まで高められたカエルフレアの顕現まで幾許の猶予もなかった。 「2手に別れた方がいいんじゃねーか。ここにあのピサロがいねえってことは、ヘクトルが戦ってんだろ」 「んー、でも、あのジャファルって子?がヘクトルと一緒に戦ってたように見えたけど……」 お前そんなキャラクタだったか、と首を傾げるアナスタシアにアキラが返す。 魔王や紅蓮との戦いで気に留める余裕もなかったが、戦闘中の画像を頭の中で再生するとそのような絵が浮かばなくもない。 「確かに、あのフォルブレイズをカエルが持っているとなるとあり得ない話じゃない。 だが、俺のように、人の心はいつ移ろうか分からない」 昔日の後悔に目を細めながらストレイボウはカエルの、紅蓮の持つ魔導書を見た。 あれは間違いなくニノが大切に所持していたものだ。 それがここにあるということは、ニノの身に重大な何かが生じたということだ。 その最悪の推論を続ければ、彼らがジャファルをよく知らないからこそ ジャファルがこちらに寝返る可能性もありえなくはない。 だがそれは同時に、ジャファルが未だに敵である、あるいはニノを求めてもう一度敵になる可能性もあるということだ。 1対3になれば、いかなヘクトルとて戦線を長々と維持し切れまい。 とすれば、ここは部隊を2手に分け、対紅蓮チームとヘクトル救援チームに分けるのが良策である。 そう分かっていながら、イスラはこの状況に蔓延する厭な匂いを感じ取っていた。 (ジョウイ、お前は一体何を考えている?) その匂いの発生源に意識を集中させながら、イスラはこの状況に疑惑を巡らせていた。 6人もいれば、2手に別れるのは合理だ。 だが、本来絶望的だった合流を成功させたのがジョウイという事実に、帝国諜報部に所属していたイスラは危険を感じ取る。 当然ながら、イスラはジョウイが黒――――優勝を虎視眈々と狙っている危険人物であると強力に仮定している。 そう考えると、ジョウイの行動は明らかに妙なのだ。 もし合流をさせなければ、労せずしてジョウイは3人を始末することができた。 上手く事を運べば、ちょこあたりも禁止エリアに叩き込めただろう。 だが、それをせずにわざわざ助け船を出したのは、一体なぜなのか。 素直にジョウイが善意で助けたと考えられればどれほど楽だろうか。 だが、捻くれ尽くしたイスラにはとてもそうは考えられなかった。 マリアベル亡き今、疑えるのは自分だけなのだ。ならば疑わなければならない。 皆を守るために、こんな僕でも、出来ることをするために。 探せ、どんな小さな綻びでもいい。ジョウイの企みの尻尾を掴め。 奴の目的は優勝、そのために僕達とマーダーの戦力を均等に殺いでくるはずだ。 そのためにこの状況を用意したというのならば、それは―――― 「なら、苦戦は避けられないだろうが仲間の命には代えられない。2手に別れよう。 俺とアナスタシア、ちょこでカエルを止める。その間に、3人で――――」 ストレイボウが戦力を吟味し、均等に戦力を配分したチームを提案しようとする。 その刹那、イスラは確かに見たのだ。 ほんの少し、そうと意識しなければ見逃してしまうほど微かに、ジョウイの口元が笑みで歪んだのを。 「ちょっと待った。それは危険だよ」 全ての背景を理解したイスラは、迷うことなくストレイボウの提案に口を挟んだ。 ジョウイを除く全員の視線がイスラに向かう。 「見る限り、あのカエルは強敵だよ。紅の暴君にアルマーズと同格の魔導書。 その上、焔の災厄の力だなんておまけ付きだ。迂闊に戦力を分けたら、それこそ力で押し切られるかも知れない。 北にしたって同じだ。話を統合するに、セッツァーは話術や謀略を得意としている。 半端な数で行けば、逆に隙を与えてしまうよ」 いかにももっともらしいことを述べながら、イスラはジョウイの表情・仕草を全力で見極めていた。 感情や隙が漏れでないように必死に挙動や表情を固めている。 今更隠したところでもう遅い。むしろ、その仕草が逆にイスラの推論を確かなものにさせる。 ジョウイの狙いは、イスラ達を2手に分けて確実に戦力を減らそうとしているのだ。 確かに戦力を2手に分ければ、状況に同時対応が可能になる。 だが、ここでジョウイが敵であるという事実を踏まえると、この対応の意味が一変するのだ。 戦力を3・3で分ければ、中央の戦いはゴゴを除けば3VS1(+カエルフレア)になり、 北の戦いはジャファルが敵ならば4VS3になる。 なるほど、どちらも数の上では有利といえるだろう。 だが、ここでジョウイが寝返ればどうなるか。 中央ならば2VS2(+カエルフレア)、北ならば3VS4になる。 そう、どちらにしてもジョウイが所属する戦場は数的不利に陥る。 それこそがジョウイの狙いだ。 3人を無駄死にさせるよりも効率的に両者の戦力を削りつつ、 暗躍できる隙を確保し、自身が有利を得る最高の状況を作ることなのだ。 「確かに……だが、いいのか、イスラ。お前はヘクトルを助けたいんじゃ……」 「個人的感情で戦局を見誤るほど、僕も錆びちゃいないさ。 僕達は負けられない。そのためには、どんな小さな石でも取り除かなきゃね」 ストレイボウの自身を案じる音調に気づきながらも、イスラはストレイボウ以外の人物に言葉を返した。 確かに、ヘクトルは心配だ。心配だからこそ、ジョウイをヘクトルに近づける訳にはいかないのだ。 第四放送から第五放送までのジョウイの単独行動を考えれば、おそらく、 否、間違いなくジョウイはセッツァー達と通じている。 そう考えれば、セッツァー達がジョウイを尋問したと言うのも、 ジョウイから疑いを外させるためのセッツァーの策とも考えられる。 そんなジョウイをヘクトル救助チームに向けることは論外だ。 かといって、ジョウイを放置してイスラがヘクトルを助けに向かうことも、またジョウイとセッツァーの思う壺なのだ。 「僕はヘクトルを信じている。ヘクトルなら、どんな策略も通用しない。 そんなヘクトルが、僕達を信じてカエル達を倒させるために北で戦ってるんだ――――その気持ちを、無駄になんてできない」 だからこそ、イスラは耐える。 自らを城塞と化して北で戦線を維持するヘクトルの気持ちを無駄にしないために、 自分のような心の弱さを持たないヘクトルならば大丈夫だと、 自分に出来ることは、そのヘクトルを謀略から守ることなのだと信じて。 「言われて見りゃもっともだ。今のカエルを止めなきゃ、 ヘクトルも安全とはいえねえ。ヘクトルの頑張りを無駄にはできねえな」 「ああ。それに、あのカエルを放置は出来ない。全力で当たるべきだろう」 「それに、流石にそろそろ目を逸らす訳にはいかないものね」 「ぬいぐるみさんのこと、けじめをつけなきゃ。それに、あのぼーぼーしてるのはゆるせぬー」 4人が成程と納得した様子を浮かべるのを見て、イスラは意志に満ちた笑顔を浮かべた。 全力で紅蓮を撃破し、紅の暴君を手に入れて急いでヘクトルの救援に向かう。 それこそが、ジョウイの企みを封じつつヘクトルを最速で救助する最短ルートなのだ。 「『クカカカッ! 作戦会議は終わりかッ。なに、責めはせんよ、こちらも丁度終わる頃だッ!! 此度の蝦蟇は先程の比ではないぞ!! 出よ、ネガティブカエルフレアッ!!』」 燃え盛る焔の中で昇る熱流のように高く高く笑い続ける紅蓮。 よく見ればその脇腹が炭化して風に流され始めていた。 暴走召喚とは即ち召喚の限界を超えた召喚。召喚の触媒が自身であるならば、砕けゆくは必然に等しい。 しかしそれさえも省みぬとばかりの嘲笑の中で、極大の魔法陣から再びカエルフレアが―――― 否、ネガティブカエルフレアが現出する。大きさは先程のとはさほど変わらないが、纏う焔の質量、粘性が桁違いだった。 おそらく、紅蓮の中のありったけを対価に支払ったのだろう。 蝦蟇が纏う焔は、量は兎も角、最早ロードブレイザーのそれと遜色なく、 その焔には全ての加護が通用しないであろうことが見て取れた。 「小細工無用か、面白え」 「さっきちょことおとーさまがやったみたいに、ぎゅーん、ぐるぐるーってするのー」 「だが、やれるのか……?」 アキラとちょこが臨戦態勢に入る中、ストレイボウが息を呑んで紅蓮を見つめる。 今までならば唯の怯懦でしかなかったが、今のそれは確かな冷静さの元に裏打ちされていた。 紅蓮は器用に大蝦蟇へと飛び乗り、その頂点に立っている。 敵の数が増えた以上、別々に戦うよりもライドオンした方がいいと判断したのだろう。 確かにあの位置ならば直接的な攻撃はほぼ不可能だ。 加えて、紅蓮には回復魔法がある。あそこなら安全に蝦蟇を回復できる。 先程までと打って変わって、守りの陣形。 自らの不死性に甘えない。油断をしない。最善を尽くそうとする。 それが紅蓮のロードブレイザーとの決定的な違いにして、紅蓮がロードブレイザーよりも厄介な点なのだ。 敵は守りを固め、防御補助がほぼ通用しない以上こちらは攻めるしかない。 手を間違えれば、最悪泥沼の消耗戦に陥るだろう。 「だが、それでもやるしかないのならば、俺は、俺は……!!」 ストレイボウの思いは、ほぼ全員の思いだった。 それしかないのならば、それでいくと決めたのならば、あとは貫くのみだ。 全てを賭けて紅蓮を、災厄の残り火を、ここで潰す。 「もし……本当に貫くというのならば……一つだけ、手がなくもないです」 全ての意志が集約されたその瞬間、その言葉は発された。 全員の、イスラの視線もそこに向く。そこには、これまでで一番険しい表情をしたジョウイがいた。 「上手く行けば、紅蓮を……誰の犠牲もなく最速で撃破できるかもしれません……」 全員の目が大きく見開く。時間のない現状、それは余りに魅力的な提案だった。 「ほ、本当かジョウイッ! それは、一体ッ!!」 「ですが、この策は一歩間違えれば全滅もあり得る。それに、ゴゴさんの了解を取らないと……」 「聞かせてくれないか、ジョウイ」 「ゴゴおじさん!」 口にするのも躊躇われると言わんばかりのジョウイの言葉を、新たな音が促す。 その先には、物真似師ゴゴがいた。 抱きつくちょこの頭を優しく撫でるその仕草に、アナスタシアは少しばかり驚き、そして優しげな表情を浮かべた。 物真似師は変わっていた。それは、ペンダントをつけているという物理的変化に限ったことではない。 漏れ出していた邪気が消えている。理由は分からないが、聖剣の加護が改めて機能しているのだろう。 これで自分が勇者にお節介を必要も完全になくなったというわけだ。 「俺のことなら案ずるな。どのような危険な役でも、物真似し切ってみせる」 自らの物真似に絶対の自信を誇りながら、ゴゴは胸を叩いた。 その頑強さに、皆の顔も引き締まり、ジョウイの策を目で促す。 その目線の全てを見定めた上で、ジョウイは僅かに息を吸い直し、その策を告げた。 「『どうしたどうした。意気揚々と始めるのではなかったのか!? これでは肩透かしもいいところ。 なれば不本意ながら致し方なし、こちらから幕を上げると、否、引くとしようかッ!!』」 攻めてこない7人に業を煮やし、紅蓮が紅の暴君を天に掲げる。 すると、周囲を取り巻く炎の一部がさらに煮詰まり、細長い刃と化していく。 「――――以上が、策です」 ジョウイが全てを述べたあと、僅かな、しかし重すぎる沈黙があたりを包む。 アナスタシアはこれまでで一番真剣な表情で考え込み、まずアキラをみた。 「実際、どうなの? アキラ君。可能?」 「ユーリルの中には入れた。オディオが俺達を夢の世界に集められたことを考えれば、不可能じゃねえはずだ。だが……」 アキラは必死に考え、しかしその可能性があり得ることを認めた。 「……本気で言ってるのか。一歩間違えれば俺たち、否、全員死ぬぞ」 ストレイボウが、重苦しい表情でジョウイを見つめる。 だが、ジョウイの表情もまた真剣であったことから、 ジョウイが決して安易な気持ちでそれを口にした訳ではないことが分かった。 あの戦いを忘れたものなどこの場にいない。あの救いがなければ、全員死んでいたのだ。 それでもなお、そのリスクを負おうというのか。 「おじさん……」 ちょこがゴゴのローブの裾を掴み、全員の視線がゴゴに集まる。 彼らは自分たちが議論したところで意味がないことを理解していた。 全ては、この物真似師の想い次第なのだ。 「――――やろう。それが、全員が生きて進むための道ならば」 ゆっくりと、しかし確かな声でゴゴはそう言った。 その策が意味する“リスク”を理解していないはずがない。 それでも、ゴゴは決意した。 ゴゴを突き動かしたのは自己犠牲などといった清純な理由などではなく、もっと暴力的なものだった。 ただ、それが物真似である以上、その矜持に賭けても成し遂げるという決意の元に、ゴゴは応じた。 「『レッドニードルッ! 眼前の命を朱に染めろッ!!』」 紅蓮の号令と共に、焔が攻撃を放つ。 本来形無き焔は煮詰めつくされ、どんな金属よりも硬い無数の朱針となって、彼らに襲いかかる。 「……分かりました。ならば――――」 彼らの決意を見取ったジョウイは振り向き、右手を針に翳した。 中空に現れた黒き刃が砕け、煌めく刃の破片が次々と針をたたき落としていった。 「それまでの時間は、僕が稼ぎます。他の皆さんは、3人を守って下さい」 そういって、ジョウイはゆっくりと紅蓮に向かって歩み始める。 魔王の外套を棚引かせているからか、その後ろ姿が、妙な近寄り難さを放っていた。 イスラがジョウイを追い、その耳元で囁く。 「……どういうつもりだい?」 「こうなってしまった以上は仕様ない。その上で出来る最善を尽くすだけだ」 ジョウイはこともなげにイスラに答えた。 イスラがジョウイの正体を見抜いた以上、喋っても構わないと言わんばかりだった。 一体何を、とイスラが問い返そうとしたとき、北より巨大な叫び声が聞こえた。 狂ったように大気を揺るがす時の声の主を、イスラが誤ることはなかった。 「向こうも佳境だ。お互い、死なれたら困るだろう」 声を受けて放たれたジョウイの言葉に、イスラはジョウイの思惑を理解した。 北の戦況もまた大詰めを迎えているが、ここからでは遠すぎてヘクトルが優勢なのかセッツァーが優勢なのか分からない。 チーム分断による各個撃破が出来なくなった以上、ジョウイもまたセッツァーの救援に向かいたいのだ。 ジョウイは紅蓮を倒し、セッツァーの救援に向かいたい。 イスラ達は紅蓮を倒し、ヘクトルの救援に向かいたい。 つまり、紅蓮の撃破まではお互いの目的は合致している。 「その後はよーいドンで早い者勝ちってことかい――――やっぱり、君のことが嫌いだよ、僕は」 「……そうか……“だからか”。じゃあね」 「ああ、さよならだ」 ジョウイはそう言い残して、紅蓮へと向かう。 その背中を僅かに見つめた後、イスラは心底面白くなさげに踵を返した。 紅蓮がロードブレイザーの性質を持っている以上、ジョウイと協力関係になることは絶対にあり得ない。 ならば、ここはジョウイを利用するのが最善だ。 紅蓮に勝った後は、容赦なく全てをみんなに打ち明けるとイスラは決心した。 そして、できればその前に壁役のまま死んでくれればなと、自分の影を呪いながら吐き捨てた。 巨大な蝦蟇に乗った紅蓮とジョウイが対峙する。 対峙するといえど、その目線の高低差は尋常ではない。 紅蓮は魔王の外套を纏い冥府の鎌を携えるジョウイにおやと嘲った。 「『その出で立ち、見るからに魔王だが、底の浅さが如何ともし難いな。 そのような矮小で、この私に独り立ち向かうだと? 健気を通り越して無能もいいところだ、クククッ』」 だが、見上げるジョウイには一切の感情が無かった。否、全ての感情を支配していた。 「『怖いだろう、死にたくないだろう。無様に怯えろ、卑しく竦め。蛙のように無様に地を這う気分はどうだ人間ッ!?』」 「そんなものはないよ。強いて言うなら……歓喜だけさ」 無表情でそう答えるジョウイに、紅蓮は怪訝な表情を浮かべる。 ジョウイの言葉に嘘はなかった。糧となるべき恐怖が、憎悪が、あまりに薄い。 まるで、今この場で対峙することが、己の意志ではなく義務だとでもいうように。 「『貴様、何を考えている?』」 「魔王に塩を送られた。魔王に気づかれるくらいだから、直に他のみんなも気づくだろう。お互い、ギリギリなのさ」 ジョウイはほんの十数分前の出来事を見返すように瞳を細めた。 紅蓮は何を言っているのかを理解できない。ただ、魔王の名を告げられたことだけが癪に障った。 「だから僕は少しだけ安堵している。“もう一つのしこりを、今のうちに精算できるのだから”」 ジョウイがそう言って、右手を再び天に翳した。その瞬間、その紋章がこれまでで最大の輝きを放つ。 「『この力はッ!? 貴様、今まで手を――――』」 「抜いていた訳じゃない。文字通りこれは“諸刃の剣”なのさ。 だから僕は少しだけ、嬉しい。この全力を君にぶつける“という状況に出来た”んだからね」 ジョウイの右手が黒き光をさらに強める。 強まる度に、ジョウイの生気が失われていくのが生命活動の根元たる火を識る紅蓮にも理解できた。 そう、これは諸刃の剣。力を使う度に命を費やす、契約の力。 「『ククク、しかし残念だったな。その力は破壊の力ッ!! 私の大好物にして私を形作る概念ッ!! それでは私を殺せぬぞッ!!』」 「それでいい。例えこれが破壊にしか使えない力だとしても、僕は全てを守りたいと想い、手に入れた。 だから、今度こそこの力で守ってみせる。君の刃だけは二度と――――この後ろに通さない」 ジョウイの背後が大きく歪み、黒き渦となる。 渦に波紋が揺らめき、小石を向こう側から投ずるように、ゆっくりと”それ”が現出した。 それは片手剣だった。それは刀だった。それは斧刃だった。それは短刀だった。それは槍刃だった。それは両手剣だった。 それは刃――――人が人を殺すためのものだった。 「右剣に六本、左刀に六本。合わせて十二の黒き刃が、君に立ちはだかる輝く盾だ。 君の殺意を、僕の向こうに徹したいのなら……この力を越えてからにして貰おう」 隠しに隠し通したジョウイの奥の手。膨大な命を蝕んだその先しか存在できない、死の羅列。 殺すことしか出来ない黒き刃の紋章の力の果ては、やはり殺害の極致だ。 しかし、それでもジョウイの瞳も、紅蓮に向けられた刃の切っ先も揺るがない。 「黒き刃よ……“どんよくなる友”よ。今度こそ眼前の敵より守り通せ。 ――――かつて守れなかった、ルッカ=アシュティアの名に懸けてッ!!」 「『ッ!?』」 ジョウイの中を駆けめぐる何かを現すように、戦争の具現――殺す力が恐るべき速度で射出される。 射出された武器の形をした力は大蝦蟇を穿ち、その巨躯に穴を開ける。 しかしその孔はすぐに焔に覆われ、その傷を塞いでしまう。 砕けた刃はすぐさま力と還元され、ジョウイの背後から新たなる刃として射出される。 それはロードブレイザーを利する力。焔の災厄ならば歓喜に打ち震える力。 闇で闇を覆うような戦いは、最初からジョウイが敗北する千日手でしかない。 しかし、紅蓮は僅かながらに紅の暴君の切っ先を揺らめかせた。 思い出したのだ。この小僧の見ている側で、私は、俺は誰かを殺したのだと。 奴は守れなかった。俺を敵と見ていなかった。 何故か? 俺を仲間だと思っていたからだ。油断していたからだ。 何故か? ――――――――それは、俺が殺した奴から聞いていたからだ。 俺は、そう――――殺したのだ。 守るべきもののために、願いのために、何か、ひどく大切なものを、自分の意志で捨てたのだ。 「『クカカカッ、実に奇縁ッ! そうか、私たちは因縁があったのかッ!! “心底どうでもいいから完膚無きまでに失念していた”ぞ。とはいえ一方通行と無碍にするのも無粋ッ。 善し、決して叶わぬ復讐を成してみろ。その無念すら、私の餌としようッ!!』」 朱針と黒刃がぶつかり合う中で、ああ、そうかと何処かで誰かが苦笑する。 飲み込んだと想ってた罪は、決して忘れぬと想っていた傷は……思いの外、簡単に忘れてしまうのだと。 時系列順・投下順で読む BACK△141-3 『そうはならなかった』お話NEXT▼142-2 為すべきを成すべき時 -Friend s Fist with Brave-(後編) 140-3 抗いし者たちの系譜-虚構の物真似師- アナスタシア 142-2 為すべきを成すべき時 -Friend s Fist with Brave-(後編) ちょこ ゴゴ カエル ストレイボウ アキラ イスラ ジョウイ 141-3 『そうはならなかった』お話 セッツァー ピサロ ▲
https://w.atwiki.jp/catrpg/pages/57.html
体験版 体験版をアップしました。 第一章までプレイできます。 第一章までの攻略については後日編集します 何度もダウンロードしてくださった方々には大変ご迷惑をおかけして 申し訳ないです。体験版処理を行う際にファイルをいくつか消去したのですが その際にけしてはいけないファイルもけしてしまったようです。 前のセーブデータを新たにアップデートしたファイルに入れなおすことで セーブの続きからプレイすることができます。 現在、制作中の猫RPG3の新情報についてこちらで記述していきます。 メンバーは? →1や2でもお馴染みのメンバーを中心に新たなキャラクターが登場するかも!? システムは? →大きな変更として『職業』の概念が登場!魔法使いのバジルや、戦士の中村など、今までとは違った戦い方が可能に!さらに、一般的な職業だけではなく少し変わった職業も登場するらしいが…? 難易度が追加されます! →今までの猫RPGで、猫が好きでプレイしてるけどRPGが苦手・・・という方がいるようなので、全体の難易度を調整できるシステムを導入しました! これにより、ストーリーだけを楽しみたい方、一度クリアした後難易度の高い敵と戦ってみたい方…など様々な戦い方ができるようになりました! 今回もRPG以外のパートが…? →猫RPG2でも、パズルやアクションゲームが登場しましたが、今回も様々なRPG以外のゲームがでてくるようです!それは一体なんなのでしょう? その他にも? →数々の新システムを導入しました。またストーリー全体のバランスも大きく調整され、新たな舞台「カンサーイ大陸」を旅する中村たちの活躍はこれからも続いていくようです!
https://w.atwiki.jp/nico_tkool/pages/14.html
ニコニコRPG 作者:SD2 使用ツール:RPGツクール2000 シリーズ総数:最終話(第36話、完結) シリーズリスト:【ニコニコ動画】ニコニコRPG 外部wiki:ニコニコRPG攻略Wiki 正式名称はニコニコ動画(RPG)。 陰陽師、矢部野ピコ麻呂を主人公に、様々なニコニコ有名キャラが登場する。 キャラの多さやネタのチョイス、原作(もしくはニコニコ上でのネタ)シーンをゲーム中に再現するなど、 うp主の視聴者に対する多大なサービス精神を伺わせる。 また、技や呪文の類もニコニコ上でのネタから多く引用されており、派手な演出も相まって 退屈になりがちな戦闘シーンを魅力的に盛り上げている。 物語は全体的に高いテンションを保っており、そこからもグランドソードの影響を感じられるが、 クセのないテキストやストーリー進行、程よく挟み込まれたミニゲームなど 多くの人が楽しめる作りが成されている。 2008年8月19日に最終話が投稿されストーリーは完結したが、 最終話のコメントより製作者が今後、一部修正や追加がなされると思われる。
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/392.html
聖女のグルメ ◆wqJoVoH16Y ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 干し肉(固い) パン(丸い) ほしにく(量多め) 麺麭(ごつくて拳みたい) ☆肉(別にハイパーではない) ブレッド(ジャムくらい寄越せ) 燻製肉(保存は利きそう) 水(炭酸ではない) 干しにく(投げたら誰か仲間にならないだろうか) バケット(一応麦っぽい) ぱん(武器に使えそう) 水(味はしない) ほし肉(そもそもこれは豚なのだろうか、牛なのだろうか……) ウォーター(魔法で精製したというオチはなかろうか) くんせいにく(考え出すと、この燻製、何の植物でやったのだ……?) アクア(そうか……すべては……そういうことだったのか……) 小麦粉でつくられ通常はイースト菌でふくらまされそれから焼かれる食物(ならばすべてはおそすぎる……) 数日間塩につけた後一晩水につけて塩抜きをしてから水を拭きひもで縛って吊るし、 金属の缶に包んだうえで底部に乾燥した木片を撒いて燃やし噴煙を浴びせた肉 (宇宙の全てが…うん、わかってきたぞ……そうか、空間と時間と俺との関係はすごく簡単――――― 「うわあ なんだか凄いことになっちゃったわ」 目の前に燦然と輝くその光景に、アナスタシアはそう感嘆せざるを得なかった。 肉、肉、肉。パン、パン、パン。肉パン、パン肉、にくにーく。 そんなものが眼前に広がっているのだ。彼女がそう漏らすのも無理は無かった。 「うーん、パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと 干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と 干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と 干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と 干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と 干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と 干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉がダブっちゃったか」 胡坐をかいて腕組みをしながら、アナスタシアは唸る。 落ち着いて考えてみれば、何の不可思議もないのだ。 ここに集まった6人、そして先の戦いで命を落とした者達、そして彼らが歩んだ道程で 手に入れたデイバック、かき集めて18人分。 そして1人のデイバックには成人男性相当で2日分の糧秣が入っており、 実質あの夜雨以降、まともに食事をとる余裕は誰にもなかった。 平均して、どのデイバックにも後1日3食分の糧秣は残っていた。 このパンと干し肉の海はできるのか。できる。できるのだ。 18人の3食分を全部同時にぶちまけるという狂気を容認するという条件下において。 (あせるんじゃないわよ) 瞼を絞りながら、眼前の肉林を睨み付ける。 3食分ほど出して、パンと肉が連続した時点で、その無音の警告を感じるべきであった。 あのオディオが、人の食事に頓着するわけもないのだ。 その次は別の食物がでるだろうなどと、甘い考えを抱いたのが失着だったのだ。 全員に支給されたのはパンと干し肉と水のみ。 その考えに辿り着かず、行きつくところまで行った結果が、この肉林である。 (わたしは血が足りないだけなんだから) 自省しながらもその思考はやはりいろいろ足りていないのか、 するりと右手がパンを掴み、左手の指がつまんで千切り、口の中へパンを入れていく。 (ただおなかが減って死にそうなだけなんだから) 脳内でモノローグを終えるときには、既に3つのパンが眼前から消えていた。 「なにこのパン。グレた田舎小僧みたいな硬さ。こっちの干し肉は……おばあちゃん。うん、おばあちゃん」 ふうわりとは程遠い食感は、保存性以外の全ての美徳を投げ捨てていて、 表面に塩と固まった脂を浮かせた肉は、水気の欠片もない。 そんな、誰からも嫌われそうな食料であったが、アナスタシアの食するスピードは落ちなかった。 所作こそは貴人のそれを踏襲しているが、鬼気すら感ぜられるその食事は、優雅とは程遠い。 この世界には、彼女とパンと肉しかないのではないかとさえ思えるほど、唯一に閉じていた。 「よお」 その閉じたテーブルの対面に、1人の男が座る。 引いた椅子で床を鳴らすような無神経に、アナスタシアは僅かにパンを運ぶ手を止めて前を見た。 対面に胡坐をかいて座るは、天を衝くが如き怒髪の男アキラ。 その瞳には、いつもの真っ直ぐな気性には似合わぬ、僅かな陰りが感じられた。 「がつがつ、ぐぁつぐぁつ」 が、そんな所感などこの食事を妨げる理由にはならず、アナスタシアは再び肉とパンを喰らっていく。 思うに、この男は生き残りの中で今一番彼女と縁遠い。確かに2、3の語らいはしたが、 それこそ“状況が語らせた”ものに過ぎないのだ。 故に、アナスタシアは食事に没頭する。 少なくとも、目の前まで来て言葉に窮する男にかけてやる言葉など、彼女は持ち合わせていない。 実際、アキラの胸中はアナスタシアの見立てに近い。 アキラを羽虫か何かのように一瞥した後、アナスタシアはひたすら食事をしている。 まるでアキラのことを存在しないと思い込んでいそうなほど、その隔絶は明確だった。 その孤独の密度を前に、アキラの脳裏に影が過ぎる。幸運の怪物、蒼空の特異天。 あの悪夢が目の前の少女にダブったのは、気のせいだろうか。 (クソ、なんでこいつのところに来ちまったんだ) アキラは頭を掻きながら、ここまで自分を運んだ己の足を罵る。 だが、その罵倒が筋違いであることもアキラは承知していた。 そう、承知している。アキラは己がなぜここに出向いたかを承知している。 苦手に思う理由は山ほどある。 ユーリルの心を捕えていた茨の源泉である彼女に、好意を抱ける道理はない。 が、それを圧してでもアキラは彼女に言わなければならなかった。 (だけど、どう切り出すかな) しかしいざ面を向かえば、苦手が顔を出す。 本題の中身が中身故、直球を投げるのも心苦しかった。 かといって好かぬ奴原と世間話をできるほど、腹芸が達者でもない。 (あー、もう、めんどくせえなあ) そのため、ちらちらと飯を食うアナスタシアを横目にみることしかできぬアキラだった。 が、ふいに、アナスタシアを――アナスタシアの額に気づいた。 「あ、消えてら」 「――――ぶぁ(は)?」 アナスタシアがパンと肉を頬張ったまま間抜けな音をあげ、口からパンくずを溢す。 『なにを?』とか『なにが?』とか言うよりも、パンくずが地面に落ちるよりも早く。 「わたしの顔に落書きした屑野郎だァァァァァァァ!!!!!!!!」 鬼面の女が迷うことなく手近な石をブン投げてきた。 「危っ!? おいテメ、いきなり石投げる奴があるか!?」 慌てて投石を回避するアキラに、アナスタシアはさらに追撃を仕掛ける。 「だまらっしゃい! 善因には善果在るべし、悪因には悪果在るべしッ!! 清きの柔肌に墨塗るような奴は焼いて砕いて轍になるべしッ! 因果応報天罰覿面の道ォォォォォォ理ィッ、聖女<おとめ>の理此処に在りッ!!」 質量のある残像! 全身27ヶ所の関節を同時加速! 聖拳<ディバインフィスト>が火を噴くぜ!! 「いい加減にしやがれぇぇぇぇ!!!!!」 「痛っイイ!! お…折れるう~~~~!!!!!」 その幻想は、とっさにかけられたアームロックによってぶち殺されましたとさ。 まあ、全うなケンカもしたことのない小娘が近未来で生き抜いてきたアキラに素手ゴロで勝てるわけもなし。 「ど、どうかこの瞬間に言わせてほしい……『それ以上いけない』」 「お前が始めたんだろうがああああああああ!!!!」 ろくに力も込めていないアームロックを掛けながら、アキラは呆れた気分になった。 セッツァーと同等に見た自分が恥ずかしい。こんなバカなヤツに何を遠慮する必要があるのだ。 ただ、ただ謝らなければならないことを伝えるだけなのだから。 「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというかミナデインしなきゃあダメなのよ」 「頼む、お前、もうホント黙ってくれ……」 干し肉を噛み千切りながら鼻を鳴らすアナスタシアに、アキラはぐったりと項垂れた。 「しっかし単調な味。ヘタクソなお遊戯みたい。バターかジャムかマヨネーズくらいないのかしら…… あによ、不満そうに。悪かったっていったでしょうよ。お礼だってしてあげたでしょ?」 「それはアレか。あのヘタクソな味噌汁作るパントマイムのことか……ってンなことはいいんだよ!」 アナスタシアの応答を断つように、アキラは首を振った。 この女は泥沼だ。もがけばもがくほど、構えば構うほど引きずり込んでくる。 戯言に関しては全部無視するくらいが丁度いいのだ。 そうでなくては、この戯言に甘えて、永久に言えなくなりそうで。 「――――すまねえ」 咀嚼が途絶える。頭を下げたアキラのつむじが、アナスタシアからはくっきりと見えた。 「私が謝ることはあっても、貴方が私に謝ることなんてないと思うんだけど」 パンの切れ端で唇の脂を拭いながら、アナスタシアは距離を測るように言った。 その眼には退廃こそあれど、享楽はない。 「ちょこを、守れなかった」 絞り出されるように喉から吐き出されたのは、1人の少女の死。 その手に差し出されたのは、一枚の楽園。 夢に挑み、夢を歌い、そして夢を吸い尽くされた少女の成れの果て。 「助けられなかった。俺が、あいつを助けられなかった……!」 彼が頭を下げるべき話ではない。彼がどの程度疲弊していたかは言うまでもなく、 その中で彼は己が持てる者も、借りた力も全て使っている。 もうあれ以上に彼ができることなど、探す方が酷だ。 だが、それは彼にとって慰めにもならなかった。 あの時も、かの時も、そしてこの時も、彼だけが生き残った。生き残ってしまったのだ。 目の前の少女があの小さな子供を、どれだけ大事に思っていたかも知っている。 その上で今、目の前にあるものが全てなのだ。 アナスタシアはそっとカードを拾い、じっと見つめる。 怒っているのか、泣いているのか。濁った瞳は今一つ判別がつかない。 空いた手で手近な水筒を掴み、口の中のものをゆっくりと流し込む。 ぷは、と空いた水筒を煩雑に投げ捨て、言った。 「不思議なものね。もう少しクると思ってたんだけど」 2本の指で抓んだカードを揺らしながら、アナスタシアは嘆息した。 過程が抜け落ち、ただ結果のみ残された死は、アナスタシアに激情も落涙も齎さなかった。 あるいは、その現場を目撃すれば、せめて、放送の前にこの話をしている余裕があれば。 泣き叫び、狂い呻き、その死を受け入れなかっただろう。 時間とは残酷で、彼女の死はアナスタシアが否定も肯定もするまえに消化され<うけいれ>てしまった。 「ねえ、私の顔を見てくれない? 何も感じてないように見えて、実は涙を流してるとかそういうの、ある?」 アキラが顔をあげた先には、アナスタシアの薄気味悪い笑みしかなかった。濁った瞳には涙の跡もない。 マリアベルが喪われようとした時に見せた、あの感情も拒絶をどこに置いてきたと聞きたくなるほどに。 「ない、か。これってひょっとして、どうでもよかったってことかしらね?」 「おい」 「ちょこちゃんには悪いことしたわね。わたしって、わたしが思ってる以上に薄情だわ」 「おい」 「ああ、まだ居たの。はいはい伝えてくれてサンキューね。用が済んだらオトモダチのとこに帰んなさい」 アナスタシアは速やかに会話を打ち切るべく、シッシと排斥を促す。 だが、アキラはその手首をつかみあげ、アナスタシアを強制的に立ち上らせる。 2人の視線が交差する。1つは退廃に濁り、もう1つは怒りに輝いていた。 「痛いんだけど。あなた、私に謝りに来たんじゃないの? 態度違わなくない?」 「……そのつもりだったがな、手前の腐り顔見たらその気も失せた」 確かに、アキラがここに来たのは、アナスタシアに謝るためだ。 ちょこがどれだけ、この女のことを信頼し、好意を抱き、共にありたいと願っていたか。 それを誰よりも知っているからこそ、それを叶えてやることのできなかった自分を許せず、 こうしてアナスタシアに頭を下げに来たのだ。 だがどうだ。目の前の女は、果たしてそれに値するのだろうか。 ちょこが抱いたイノリを受け止めるに値するほど、この女は良い女と言えるだろうか。 「手前はちょこに大した想いも持ってなかったかもしれないがな、 あいつは最後まで、最後の最後まで、お前のことを想ってたんだよ!!」 アナスタシアを掴んだアキラの手が淡く輝く。ちょこをいやした時に掴んだ、 ちょこが抱くアナスタシアのイメージを、アナスタシアに送ろうとする。 「だから、分かれよ。ちょこがどれだけお前を想っていたのか、分かってやれよ!!」 「要らないわよ。そんな手垢のついたイメージなんて」 だが、突如バチリと力が奔り、アキラの手が弾き飛ばされる。 吹き飛ばされたアキラは一瞬驚愕し、そして再び怒りを浮かべた。 何のことはない。アナスタシアにイメージを注ぎ込もうとした瞬間、 接続された回路から、アナスタシアの思想が逆流したのだ。 アナスタシアの身体全てに染み渡り、詰め込まれた「生きたい」という唯一の想いが。 「聖剣貰う時に一回させてあげたからって、私が簡単に暴ける女だと思った? 私の想いに干渉したかったら、ファルガイアを滅ぼす覚悟で来なさい」 せせら笑うアナスタシアに、アキラは怒りと苦渋を混ぜた表情を浮かべるしかなかった。 自分も満足な状態とはいえないが、それを差し引いてもここまで想いの密度が異なるとは。 私らしく生きたい。マリアベルに恥じないように生きたい。かっこいいお姉さんとして生きたい。 枝葉末端は異なれど、どの想いにも通ずるのは「生きたい」。アナスタシアを満たすのはその一念のみ。 アキラはやっと彼女がセッツァーに似ていると思った理由が、分かった気がした。 たった1つ懐いた感情――『欲望』ただそれだけで世界を捩じ伏せる。 『夢』と『欲望』。種類は異なれど、その在り方は紛れも無きあのセッツァーと同質だ。 「手前は、それでいいってのか。生きたい、死にたくないってばかり言いやがって。 守りたいものが無くなっちまったらそれで終わりか? ちょこのために、何かをしようって気にはならねえのかよ!!」 「少なくとも、今取り立てて思い浮かぶことは無いわね。貴方を砂にしても憂さも晴れるとは思えないし。 それにね、『何がしたい』っての、今はそういうの考えたくないのよ。皆、ストレイボウに毒され過ぎよ」 まるで自分以外のものを蔑にするかのようなアナスタシアに吠えたが、 その返事として突然現れたストレイボウの名に、アキラは面食らう。 「したいことを決めたとしましょう。そのために生きようと思う。そこまではいいわ。 その『したいこと』が強い想いであればあるほど、なるほど、その生は輝くわね。 ……じゃあ、それが終わってしまったら? したいことをしてしまったら?」 意地悪く問いかけるアナスタシアの濁った瞳に、アキラはイスラを思い出した。 そして、その妖艶な笑みに、ユーリルの記憶の中で見たアナスタシアが重なった。 「『何かをするために生きる』ことは最後には『何かをするために死ねる』ことに至るのよ。 だから、今は……いや、これからも本気で考えたくはないわね…… 何かをするために生きてるんじゃない。生きている私が何かをするの。私は、墓穴探して生きるわけじゃないのよ」 したいという願いは、いずれ人を死に誘う。純粋過ぎる生は、死と表裏一体なのだ。 故に誰よりも生を欲した欲界の女帝は生を濁す。輝かなければ、光は決して消えないと信じるように。 「不思議だな……ユーリルよりかは話が分かりそうなもんだが、あんたの方があいつよりクソに見える」 近くに並べられていたパンと肉を拾いあげ、アキラは怒りと共にそれを呑みこむ。 勇者と聖女。こうして2人の想いに触れたからこそ分かる。 アナスタシアとユーリルは置かれた立場は似ていても、その受け入れ方が真逆なのだ。 ユーリルは『自分は勇者だ』というところから始まり、 逆にアナスタシアは『私は英雄なんかじゃない』というところから始まっている。 そんな真逆なのに、アナスタシアがユーリルに同意を求めればどうなるかなど決まっている。 その答えがアナスタシアの思想に侵食されたあの茨の世界だったのだろう。 そう思えば、判別のつかない怒りがアキラに渦巻いてくる。 もし、あの時ユーリルに言った叫びをこの女に浴びせたところで、河童に水をかけるようなものだろう。 むしろ、好き勝手やった破綻者という点においては、アキラとして共感すべき点もある。 「死にたくねえから本気にならねえって言う奴よかは、あの雷<ヒカリ>の方がよっぽどマシだ」 だが、今のアキラには、アナスタシアの在り方は許容できないものだった。 勝手にしろと吐き捨てることが何故かできないほどに、アキラを苛立たせている。 「それでいいのよ。貴方たちは貴方たちのために『したい』ことを探しなさいな。 私は私が生きるために、目先の首輪を外すために全力を注ぐ。それでいいでしょ」 だが、そんな苛立ちすらアナスタシアには届かない。 問答はそれで終わりだと、聖剣を背にアナスタシアがどっかりと深く座る。 アキラもまた、それで終わりにすべきだとアナスタシアに背を向ける。 あの時、ちょこを戦いから引き離しておけば――そんな慙愧すら、あの女には勿体無い。 もはやアキラには、アナスタシアを気にする理由など、何一つあるはずも―― 「あんたは、寂しくねーのかよ」 首だけで振り向いて、捨て台詞を吐く。 それは、アキラの言葉ではなかった。黒の夢を最後まで憐れんでいた一人の少女の切なる願いだった。 「一人で生きて、生きて……あんた、今、幸せか?」 ひとりじゃいやだと、あの子は最後まで言っていたのだ。 お前はどうなのだ。そんな子供と『けっこん』しようとしたお前は、それで幸せなのかと。 「そんなの決まってるでしょ」 そんなぶっきらぼうな問いに、ふう、と微かなため息をついて、彼女は微笑んだ。 退廃のままに、ただ、先ほどまでよりほんの少しだけ、熱を残して。 「幸せになりたいから、私は生きてるのよ」 アナスタシアと別れて砂埃舞う荒野を歩きながら、アキラは思う。 イスラがアイツを嫌う理由がよく分かった。 アキラもアナスタシアとは、99%相容れないだろう。 分かり合えるとも思えないし、また、その気もない。 「それでも、寂しいって言えるなら、アンタはまだまともなんだろうよ」 だとしても、少なくとも、アイツはセッツァーとは違うのだ。 それだけは、アキラにとって喜ぶべきことだった。 「って、なんでンなことで安心してるんだ俺は……って、ああ、そうか」 不可思議な感情を辿り、アキラはその答えに辿り着く。 最後に見せたアナスタシアの眼が、ほんの少しだけ似ていたのだ。 水底に沈める前に眼帯を外したときに見た、あの彼女の瞳に。 機械仕掛けの英雄に遺された、唯一の人間に。 「あんたも、寂しかったのか――――なあ、アイシャ」 口にした名前と共に、アキラの脳裏にこれまでの道程が浮かび上がる。 ボロボロになって、能力を限界以上に使って、 そうやって歩いた道には、守れなかったものがあちこちに転がっていた。 一体、自分は何を成せたというのだろうか。 アキラのしたいことなど、最初から決まっている。『ヒーローになる』ことだ。 だが、『どうなっても大切なものを取りこぼさない者』が『ヒーロー』だというのならば、 果たして今の自分にそれを目指すことができるのだろうか。 「省みろ、か……」 ふいに、潮の匂いとともに僅かに冷たい北風がアキラの鼻を擽った。 北の大地をみつめながら、アキラは思う。 取りこぼしたもの、守れなかったもの、残ったもの、失くしたくないもの。 そして、それでも今ここに生きている自分。今こそ、それを見つめなければならないのかもしれない。 これからも、『ヒーロー』を目指すために。 【アキラ@LIVE A LIVE】 [状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:大 [装備]:なし [道具]:なし [思考] 基本:本当の意味でヒーローになる。そのために…… 1:『その時』にむけて、したいことをしよう [参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し) [備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。 ※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。 ※松のメッセージ未受信です。 アキラの失せた荒野に、もぐもぐと咀嚼音だけが消えていく。 そこには道化めいた言葉も、作ったような表情もない。ただ無表情に滋養をかき集めている生き物がいた。 呻くような狼の鳴き声がする。紫の毛並を泳がせて彼女の横に侍ったのはルシエドだった。 セッツァーの幸運圏も収束し、実体化させられるほどにはアナスタシアも回復したらしい。 アナスタシアは何も言わず、ペットボトルの口を開いてルシエドの口元に流す。 ルシエドも何も言わず、それを舌で舐めていた。特段の意味は無い。ただの気分に近い。 「失望してる?」 主語も目的語も飛ばしたアナスタシアの問いは、今のくすんだ自分を嘲笑ったものだった。 明日を、未来を見つめない欲望は、ルシエドの好むところではない。 そう分かっていても、今のアナスタシアは――否、今のアナスタシアだからこそ、見つめたくは無かった。 「――私だってね。こんなしみったれた食事はごめんなのよ。 もう少し、素敵なところで、おいしいランチを所望したいところ」 目を閉じて思う。例えば、美しい渓流の下で、水のせせらぎを聞きながら、 焼きたてのスコーンや卵のたっぷり入ったサンドイッチ、香ばしいアップルパイを食べたいものだ。 「でもその隣には、マリアベルも……あの子も、いないの」 それをみんなで一緒に食べられたら、どれだけ素晴らしいだろうか。何と輝く一枚の想い出になるだろうか。 だが、それはもう叶わない。彼女たちと共に歩む未来は、もう来ない。 あの子がいなくてもお腹は減るけど、あの子と一緒にご飯を食べることは、永遠にない。 「アキラに言われなくたって、分かってるのよ。 あの子が最後まで何を想っていたかなんて。きっと最後の最後まで、私を想ってくれた。 そんな、あの子に、応えてあげたいと思う。何かしてあげたいと思う」 地面が、僅かに湿った気がした。水気にではなく、アナスタシアの懐く想いを吸収するかのように。 「でも、ダメなのよ……そう思ったら、どんどん、弱くなってくる。 一人ぼっちで生きるくらいなら、って、思い始めてる……!!」 幸せになりたかった。今もなりたい。その欲望は今も高まり続けている。 ちょこを想えば想うほど、明日が色褪せていく。この先の人生に、共に寄り添ってくれると約束した少女はもういない。 強く明日を想えば想うほど、描かれる未来に欠けるものがくっきりと映ってしまう。 「マリアベルも、あの子も、そんなの望まない。だから私は生きたいって願うの」 ストレイボウのいう『したいこと』。 もしも、それを見つけてしまったら、私はきっとそれを叶えるだろう。 この欲望をその一点に集中させて、あらゆる障害を――オディオさえも――打ち砕いて叶えるだろう。 「したいことなんて、無いわ。理由をつけなきゃ生きられない人生なんて、それだけで不純よ。 私は生きる。理由が無くても、未来に誰も待っていなくても、今に寄り添う人がいなくても」 そう想わないように、強く願う。 生きたい。生きたい。ただそれだけの想いを燃やし尽くす。 他は何も見ない。未来を想わない。したいことなんてない。死にたいなんて想わない。 例え、この青空の下に、あの小さな小さな光がもうないとしても、私は生きていく。 寄り添うと誓った良人として、ただ一人、バージンロードを歩いていく。 「きっと、それだけが、あの子に捧げられる返事なのよ」 ルシエドの毛並に己が身体を預け、アナスタシアは空を見上げた。 アナスタシアの感情に同調するように、空の感情にアナスタシアが同調するように、 澄んだ青空のはずの空が、くすんで見える。 きっとこの空が青空を取り戻すことはないだろう。 あの子のいない空はまるで夜のように暗くて、私はこれからそんな空の下を歩いていく。 少し、しんどい。 【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】 [状態]:首輪解除作業中 ダメージ 中 胸部に裂傷 重度失血(補給中) 左肩に銃創 精神疲労 中 [スキル]:せいけんルシエド [装備]:アガートラーム@WA2 [道具]:ラストリゾート@FF6 [思考] 基本:生きたいの。生きたいんだってば。どうなっても、あの子が、もういなくても。 1:『その時』にむけて、したいことをしよう [参戦時期]:ED後 <リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)> 【ドラゴンクエスト4】 天空の剣(二段開放)@武器:剣 ※物理攻撃時クリティカル率50%アップ 魔界の剣@武器:剣 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ デーモンスピア@武器:槍 天罰の杖@武器:杖 【アークザラッドⅡ】 ドーリーショット@武器:ショットガン デスイリュージョン@武器:カード バイオレットレーサー@アクセサリ 【WILD ARMS 2nd IGNITION】 感応石×4@貴重品 愛の奇蹟@アクセサリ:ミーディアム クレストグラフ@アクセサリ ※ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン データタブレット×2@貴重品 【ファイアーエムブレム 烈火の剣】 フォルブレイズ@武器:魔導書 【クロノトリガー】 “勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減 パワーマフラー@アクセサリ 激怒の腕輪@アクセサリ ゲートホルダー@貴重品 【LIVE A LIVE】 ブライオン@武器:剣 44マグナム@武器:銃 ※残弾なし 【サモンナイト3】 召喚石『天使ロティエル』@アクセサリ 【ファイナルファンタジーⅥ】 ミラクルシューズ@アクセサリ いかりのリング@アクセサリ 【幻想水滸伝Ⅱ】 点名牙双@武器:トンファー 【その他支給品・現地調達品】 召喚石『勇気の紋章<ジャスティーン>』@アクセサリ 海水浴セット@貴重品 拡声器@貴重品 日記のようなもの@貴重品 マリアベルの手記@貴重品 バヨネット@武器:銃剣 ※バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます 双眼鏡@貴重品 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの デイバック(基本支給品)×18*食品が現在アナスタシアが消費中 ―――――――――――――――――――――――、 ―――――――――――――――――――――――――――― 時系列順で読む BACK△153 Talk with KnightNext▼155 No.00「帝国軍諜報部式特別訓練」 投下順で読む BACK△153 Talk with KnightNext▼155 No.00「帝国軍諜報部式特別訓練」 151 世界最寂の開戦 アナスタシア 156 罪なる其の手に口づけを アキラ 159-1 みんないっしょに大魔王決戦-魔王への序曲- ▲